第8話 魔法とは
店に入って見渡すと、まだ11時台とお昼には少し早かったからかそこまで混んではいなかった。
席に通されおしぼりとお冷を貰う。
「何にするか決まりましたか?」
佐々木さんがメニューを渡してくれた。
「焼肉定食に単品でチャーシューを付けようかなと思ってます。あとは飲み物とかを何にしようかな・・・。佐々木さんも好きなものを頼んでください!マツリから言われてますから金額は気にしないでください。経費みたいですから。」
「いやあ、なんか悪いですねぇ。でも遠慮なくw私も焼肉定食にしようかな。」
「飲み物とかどうします?追加のお肉とか。」
「あぁ大丈夫です。歳のせいかあまり量が食べられなくなってしまって。飲み物もお冷で大丈夫です。勤務中でなければビール一択なんですけどねw」
佐々木さんは笑いながら言った。
続けて
「私に遠慮せず、お酒とか飲んでくださいね。」
と気遣ってくれた。
「私も飲み物はお冷で大丈夫です。焼肉の時は下手な飲み物よりさっぱりするんでお水の方が好きです。デザートは・・・後でいっか。注文します?」
佐々木さんは頷いて店員を呼び注文を伝える。
本当はアオバもビールを飲みたかったが、さすがにお世話してもらってる立場では遠慮せざるを得ない。
「そういえば魔法の種類なんですけど、中国魔法と西洋魔法以外にもあるんですか?」
「ん~マイナーなところではあると思うんですが、その2つの魔法がほとんどだと思います。」
佐々木さんが説明するのをアオバは相槌を打ちつつ聞き入る。
魂が発するエネルギーを魔力、その魔力によって引き起こされる事象を魔法という。
最初期の人類は魔力を発することは出来たが、それを操ることは出来なかった。
現代の私たちは目的のために魔法を使うが、当時の人類は目的もなく魔法を使ってみて、その結果起きた何かに一喜一憂するという、今とは真逆のプロセスで魔法を利用していた。
主に占いなどの宗教的な行為に用いられていたと言われている。
それが変化したのは文明が興ったことによる、人類同士の戦争の激化である。
肉体に依存した攻撃よりも、はるかに上回るパワーを発揮することが出来た魔法は戦争において重宝された。
優れたパワーを持つ者は富や名声、権力を得ることができる。
多くの人間がそれらを求めて魔法という技の向上に躍起になったのは想像に難くない。
結果、いくつかの魔法制御法、つまり魔法の種類と言えるものが誕生した。
その内の一つが中国文明から生まれた中国魔法である。
中国魔法は紀元前1200年頃に確立された現存する最古の魔法制御法だ。
その後、紀元670年頃に中東とヨーロッパでそれぞれ発生した制御法が混ざり合い、ローマ帝国によって確立された方法が西洋魔法である。
現代の世界の魔法はこの中国魔法と西洋魔法、あるいはそれらから派生したものが大半を占めている。
日本の魔法は中国魔法が主流で、陰陽師のような一部の人間はそこから派生した日本独自の魔法制御法を使っている。
中国魔法は自身の魔力を周囲の自然エネルギーに溶け込ませ、その自然エネルギーを操ることによってあらゆる事象を起こす方法である。
メリットは自然エネルギーという一個人のエネルギー量の比にならないパワーを用いるので大規模な事象を起こすことが出来ること。
デメリットは扱う自然エネルギーの方が圧倒的に大きいので繊細な魔法や小規模な魔法が困難なところだ。
例えるなら野球ボールであればカーブやフォークを投げれるが、バランスボールのような大きさでは投げるのに精いっぱいでコントロールが出来ないようなものである。
対して、西洋魔法は自身の魔力量を道具によって調整することで魔法を発動する方法だ。
この道具というのが多くの場合は杖である。
魔法を使う上で大事なのは魔力量なのだ。
蛇口をひねって適度な水量であれば、コップに水を貯めたり手を洗ったり、洗い物をしたりと様々に使うことが出来る。
しかし、消火ホースのごとき勢いで水が出てきたらどうだろうか。
きっと激しい水流によってコップや手や洗い物たちは弾き飛ばされてしまうだろう。
魔法も同じだ。
魔力量を適量に調整して初めて目的通りの魔法を実現することが出来る。
だが人間には量を調整する蛇口が備わっていない。
魔力は魂が発するエネルギーなので、魂をコントロールしなければ量の調節は出来ない。
が、魂を触ることも見ることも感じることも出来ない人間に出来るわけがなかった。
そのため人間が魔力を発する時はいつでも全力全開の最大量になってしまう。
(中国魔法は自然エネルギーが自身の魔力に対して極めて大きく重いため、強制的に魔力の動きが鈍化して勢いが殺されることで制御可能になっている。)
そんな問題を道具によって解決したのが西洋魔法だ。
必要な魔力量を道具を通して発出し、余計な分は周囲に発散させることで自身での魔力の制御を可能にしたのである。
メリットは魔力のコントロールが非常に簡単なので、大雑把なものから繊細なものまで多彩な魔法を実現することが可能である点。
デメリットは使用する魔力量が少ないので、魔法規模が小さくなってしまう点である。
中国魔法と西洋魔法は真逆の性質を持っているのだ。
「なんだか魔法って思ったより複雑なものなんですね。」
話しているうちに店内は昼時の賑わいとなっていた。
焼けた肉をご飯に乗せつつアオバは話す。
「外からくるとそういう印象なのかもしれないですねぇ。私たちは学校で習う事ですから当たり前になっちゃってます。」
佐々木さんは言いながら最後の肉を口に放り込んだ。
アオバも急ぎ気味に残りの肉を網から下ろす。
「アオバさんにとってはファンタジーの世界だったわけですから、今は何でもかんでも新鮮でヘンテコに感じるのかもしれませんね。」
「ヘンテコですかw」
「自分で言うのもなんですが魔法族の感性って独特なものがありますから・・・お?」
佐々木さんが胸ポケットからスマホを取り出す。
「マツリさんですね。ちょっと失礼します。」
そう言うと彼は電話に出た。
アオバはそのすきに急いで食べ進める。
話に興味が行き過ぎて食べるのが遅くなってしまった。
このままでは佐々木さんを待たせてしまう。
やや大口気味に肉と米を口の中に詰め込んでいき、あと三口というところで電話が終わった。
「思ったより早く終わりそうらしいです。食べたら戻りますか。あ、ゆっくりで大丈夫ですよ。まだ終わったわけではないみたいですから。」
「はい、分かりました!」
急がなくていいと言われても急ぐのである。
最後のごはんを一気にかきこんで食べきる。
デザートはまた今度!
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