第4話 大掃除3日目
昨日の夜はイナゴの集落について考えてしまってよく眠れなかった。
大掃除の最終日はやっと神社に取り掛かる。
「今日は神社の中をやるんだけど、神様に挨拶してからやるよ。」
「神様ってタマちゃんみたいな感じ?」
可愛いトラ猫が頭に浮かんでくる。
「いや、まずタマ様みたいに見えない。」
「透明ってこと?」
マツリはうーん・・と少し悩まし気にした。
「そもそも神様はみんなこの世にいないの。別の世界にいて気が向いたらこっちに干渉してくる感じ。」
どうやら神様の原理は難しい話になるようだ。
「タマちゃんも別の世界にいるってこと?」
アオバは訳が分からないといった様子で質問する。
「そうだよ。タマ様は別の世界にいるんだけど、猫の姿をスーパーパワーで作ってそれを使って私たちの世界に干渉しているの。彼みたいにこの世にずっと干渉しているタイプはかなり珍しいよ。」
かなりざっくりとした説明だが、何も知らないアオバには助かった。
「スーパーパワー・・・。タマちゃんてレアな神様だったんだ。」
アオバは感心した様子でなんとか納得したようだ。
「すっごく変わってると思うよ。で、挨拶なんだけど今日会う神様は常桜殿に協力的だからそんなに気負わなくて大丈夫だからね。」
「二礼二拍手・・なんだっけ?」
「ああ!そういうのじゃないから大丈夫。タマ様にもやらなかったでしょ?神様への挨拶ってのは人の家にお邪魔するときと一緒。お邪魔しまーすって言って、手土産を渡してあげる。」
「え、めっちゃ普通。それでいいの?」
「手土産は忘れないでね。」
「重要なんだ?」
「神様に関わる何かをするときはなんでも対価を用意しないとだめ。こちらが何かをしてあげる場合でも一応渡しておく方が安心。」
マツリが珍しくまじめな表情で言ってくる。
きっと大事なことなのだろう。
「でもタマちゃんに手土産あげたことないんだけど大丈夫なの?」
アオバは少し不安になって聞くと、マツリは大丈夫大丈夫と表情を緩めて答える。
「タマ様に関しては北山村に住んで生活することが最大の対価だから大丈夫。村の繁栄が一番の望みだからね。」
それを聞いてアオバはホッとした。
「そっか!よかった~。」
「じゃ、行きますか。」
そう言ってマツリは片手で掃除道具を抱え持つと、もう片方で膨らんだコンビニ袋を掴んだ。
「ねえ、まさか手土産ってコンビニで買ったお菓子?」
「そうだよ。ポテチとかチョコレートとか色々買ってきました♪」
アオバは思わずギョッとした。
「神様へあげるものって日本酒とかそういうのじゃないの?」
マツリはまたも大丈夫大丈夫と言って、
「そういうのは色んな偉い人たちがあげてるからいいの。いつも米と塩と酒ばっかじゃ飽きちゃうでしょ?だからお菓子。結構好きな神様多いよ。」
「お菓子が好きな神様・・・。」
アオバは荘厳な神様のイメージが崩れ、一体どんな存在なのかと考えてしまう。
「まあ行ってみれば分かるよ。」
二人は神社に向かった。
よく見る神社には正面に大きな鈴と賽銭箱が置いてあるが、この赤城神社にそれらはない。
正面の階段を上り、マツリが目の前の障子をお邪魔しまーすと言いながら開けて中に入る。
アオバも同じようにお邪魔しますと言って入ったが、本当にこんなラフな挨拶で良いのかと少々不安になった。
中に入ると六畳ほどの和室になっており、中央に木製の小さな祭壇、その上に丸い鏡が立てかけて置いてある。
「掃除にきましたよー。」
マツリはそう言いながらコンビニ袋から出したお菓子を祭壇上の鏡の前に次々置いていく。
全て置き終わると、よしっと頷いた。
「さて、始めようか。」
「ねぇ、本当にこんな挨拶で大丈夫?なんか心配なんだけど。」
「大丈夫大丈夫。なんか反応ないけど寝てんだと思う。嫌だったら向こうから言ってくるからだいじょうb「起きてるけど。」
いきなりマツリの声を遮るように低い張りのある男性の声が響く。
「あれ!すいません!なんか反応なかったんで寝てるのかと思ってました。」
マツリは上の方の何もない空間に話しかけている。
「起きてるよ~。なんか新しい人間がいるな~と思って見てたの。」
見てたと言われてアオバは思わず周囲を見渡す。
が、部屋には二人以外誰もいない。
「アオバっていうんですよ。あたしの助手として先月から働いてます。」
マツリは話しながら祭壇をヒョイと持ち上げると奥の隅へと運び、箒を手に取って端の方から掃き始めた。
それを見てアオバも怪訝な顔をしつつ雑巾で部屋のさんの拭き掃除を始める。
「ふ~ん助手ねえ~。お!ピーナッツチョコレート・・・それとノリ塩ポテチ!」
内容から察するに祭壇のお菓子を見ているはずだが、そちらを見ても誰も、何もいない。
「好評だったので2袋ずつ買ってきました♪」
「よしよしほめて遣わす。グミも色々あるな。・・・・謎味ってなに?」
「あたしにも分からないです。謎です。」
「嫌な予感すんだけど。昔、カツヤにケーキ味の焼きそば食わされたことあってさ。これも同じ感じじゃないの?」
神様ってこんなにフレンドリーな感じなんだろうか。
いや、タマちゃんもかなりフレンドリーか。
てことは神様はみんなフレンドリー・・・?
アオバは目の前の空間で繰り広げられる会話に混乱している。
「懐かしい!そんなのありましたね~!グミは私も食べたことないんで当たりか外れかは不明です♪」
「ええぇ・・。とりあえずポテチ食べよ。」
「どうぞどうぞ♪」
神様はポテトチップスを食べ始めたのか静かになった。
多分食べているのだと思うが、祭壇のお菓子に変化は見られない。
どういう仕組みになっているのだろうか。
アオバは何が何やら分からず、眉間にしわを寄せた難しい顔で周囲を見回していると、その様子を見たマツリが噴き出した。
「そんなに見ても何処にもいないよ!別の世界にいるんだってばw」
そう言われても見られていると思うと気になってしまう。
アオバは怪訝そうにたずねる。
「・・・もう話しても平気なの?」
「話すのはいつでも平気だよ!ただ全部聞かれてるけど。」
マツリが言い終わると再び男性の声が響き
「聞いてまーす。」
と面白がって神様が返事をした。
アオバは思わず顔がほころんでしまう。。
「どうしようw思ってた神様と違いすぎてどうしたらいいか分かんないw」
「堅苦しいより全然いいじゃん!赤城様はかなりフランクだよね~♪」
「赤城様ってお名前なんだ。」
言われてみれば当然だが、ずっと神様神様と言っていたので名前があることを初めて知った。
「赤城山をお祀りしてるから赤城様。ちなみにタマ様の場合はタマはニックネームで本来は浅間山の浅間様といいます♪」
「そうなの!?絶対タマちゃんの方が良いよ。そっちのが可愛いし。」
「神様に可愛さを求めてどうするw」
緊張が解けて普段通りの様子が戻ってきた。
そんな中、赤城様が問いかけてくる。
「ところでマツリ。カツヤはどうなの。」
カツヤというのはケーキ味のやきそばを食わせたと言っていたことからマツリの兄弟子だろう。
マツリは聞かれるとサッと表情を曇らせた。
「兄さんは復帰するどころか生活するのもままならない状態です。人の手で出来ることはもうないという悪さです。」
「そうか~。じゃあ担当も交代かなぁ?」
暗い様子のマツリと違い、赤城様は何も気にしない様子で話し続ける。
「それはあたしでは分かりません。幹部連中が判断するのでどうにも・・・。」
「お前担当になれよ!」
赤城様の声が一気に弾む。
「あたしは既に浅間様と契約してるんで多分無理だと思います。」
「浅間とは常桜殿通さず勝手にやったんだろ?いいじゃん同じようにしたら。」
マツリの声色は暗いままだが、赤城様の声は真逆でとても明るい。
神様というのは空気が読めないのだろうか?
「さすがに二度目ともなると許されるとは思えませんし、何より浅間様がお怒りになると思います。」
「浅間ってそんなに怖いの?」
「かなり活発な神様でいらっしゃいます。」
「そうか~残念だなぁ。」
残念と言っているが声色は大して気にしていないようである。
一呼吸おいて、マツリが続ける。
「担当を交代するにしてもすぐには決まらないと思います。兄さんが怪我をした時に一緒にいたトウマさんとお弟子さんが亡くなってしまったんです。なので群馬には師匠とあたしの二人しかいないので交代したくても出来ないと思います。」
「トウマ死んじゃったのか?マジ?」
先ほどまでの明るい声色と違い、心底驚いている様子だ。
「現状で弟子をとれるとしたら師匠しかいないんですが、なにぶん高齢なのでそれも難しいです。」
「んで、お前が最後の一人か。」
「はい。竹の格になれば弟子をとれますが、あたしは浅間様の一件があるので素行に問題ありってことで昇格は絶望的です。」
マツリは眉間にしわを寄せて苦々しそうに笑った。
「ありゃりゃ。どうしようもねぇなぁw」
マツリの様子と違って赤城様は面白そうにしている。
「ま、なるようにしかならねぇな!はぁ~あ。ポテチ食べたら眠くなってきたわ。俺寝る。」
「はい、おやすみなさい。」
ここで会話は途切れた。
少しの間、マツリは何かを考えているのか遠い所を見ていたが、ふぅっと短く息を吐くと掃除を再開した。
いつもと違う少し重い空気が漂っている。
アオバは赤城様が聞いていると思うと下手なことは聞けないと思い、掃除中はあまり会話をしないようにした。
お昼が近づく頃、神社内の掃除が終わり、マツリは奥によけてあった祭壇をもとの位置に戻した。
「赤城様ー!終わったんであたしたち帰りますねー!」
少し大きめの声で語りかけると、祭壇のお菓子をコンビニ袋に戻し始めた。
「おーご苦労さーん。今度来るときポテチ10袋くらい買ってきて。ちなみに謎味のグミは結構おいしかったぞ。」
「マジっすか!あとで食べてみます♪」
「カツヤとマツオによろしくなー。」
「伝えときます!では、失礼します。」
そう言って一礼した。
アオバも慌ててお辞儀する。
神社の外に出ると二人とも思いっきり伸びをした。
「終わった~!これからどうするの?」
「とりあえずお昼にしよう。その後は明日行くって言っといたけど、今日でも大丈夫なようなら集落に行く。」
「あぁ・・とうとう・・・・。」
掃除が終わったのは良かったが、次の予定を考えるとアオバは憂鬱になった。
テントに戻るとマツリは電話をかけ始める。
アオバはその間にパスタを茹でながら市販のソースを温めてお昼ご飯を作った。
「向こうは大丈夫だって。食べたらテントとか片付けて集落に行くよ♪」
「あぁ・・・超不安。」
「大丈夫だって!あ、今日泊まる温泉宿はかなり良い所だよ!全部経費だから部屋付き露天風呂のある部屋にして料理も最高グレードのやつ頼んじゃった。」
「本当?それは楽しみ!あ~でもやっぱり緊張する~。」
「絶対平気だから!ま、とりあえずパスタ食べて用意しよう♪」
アオバの心中は複雑だ。
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