第3話 大掃除2日目

2日目は神社に取り掛かると思っていたが、今日は登ってきた山の道の草刈りをするという。

昨日と同じようにマツリが草を刈っていくが、今回は草は集めずブロアーで道の外に飛ばしていく。

ブオーと草を風で飛ばしていくのは少し面白かった。

作業は下りなので楽ではあったが、再び登り返すことを考えると憂鬱になる。

あまり考えないように黙々と作業を続け、登り口に到着するころにはお昼が近かった。


登り口には砂利びきの拓かれたスペースが少しあり、ここまで乗ってきたキャラバンが停まっている。

マツリはキャラバンのエンジンをかけるとエアコンを作動させ、お昼はその中で休憩することに。

彼女の腰に括り付けてきた例の風呂敷から朝作ってきたラップに巻かれたサンドイッチとペットボトル飲料を取り出した。

「また登り返さないといけないと思うとしんど~。」

ハムサンドを食べながらアオバは遠い目をしている。

サンドイッチは保冷剤を一緒に巻いていたのでひんやりとしていた。

「今度は草がないからそこまで大変ではないはず。普通に登れば30分くらいで着くと思う。」

マツリは卵サンドを食べながらペットボトルのふたを片手で開けようと奮闘している。

あまり器用ではないようでうまく出来ないらしい。

見かねたアオバがペットボトルの本体を片手で抑えてあげるとやっとふたを開けることができた。

「そんなに近かったっけ?」

「草を払いながらが大変だっただけだよ。食べて少し休憩したら除草剤を撒きながら上がっていって、そのまま境内にも撒いて今日は終了かな~。」

マツリは飲みながら明後日の方向に目線をやって午後の予定を考えているようだ。

「今回の除草剤はちゃんと持続効果のあるやつなんでしょうね?」

「ちゃんと調べてきたから大丈夫♪」

「次もこんなんだったらいやだよ?」

「大丈夫だって!・・・ん?」

突然スマホのバイブ音が響く。

「マツリの?」

「うん。あたし。あ、おっ母(おっかあ)だ。」

「(おっかあ?)」

マツリはスマホに出ると食事中なのでスピーカーにした。

「もしもーし。」

「もしもしじゃないよ!あんた昨日から何度も電話してんのに出ないでさ。」

向こうからおばちゃん声が聞こえてくる。

「え、マジ?あ!圏外だったから気づいてなかったわ!」

「圏外?あんた何処いんの?」

「赤城神社。」

「あぁ!それでか~。」

「掃除しててさ、山の草刈って道まで下りてきたところ。」

「終わったの?」

「いやまだ。こっから除草剤撒いて明日神社に取り掛かる予定。」

「明日で終わんの?」

「終わらせるよ。3日もかかってんだから。」

「あ、そう。そしたらね。明後日、沼田のイナゴの集落行ってほしいのよ。あの、みなかみの方の。」

「沼田!?え~こっからのが近いじゃん。どうしよう。」

「いいじゃない、そっから行けば。」

「アオバもいるんだよ。」

「アオバちゃんも?別に一回帰ってからでもいいけどお前が大変なだけだよ。」

「確かに。ちょっと聞いてみるわ。てかなんで呼ばれたの?」

「里壁が壊れたんだって。」

「はぁ!?あんなもんどうやって壊したの。」

「過積載のトラックが横転して突っ込んじゃったんだって。」

「ええぇ~。」

「そんでまじないをやり直してほしいってさ。」

「マジか・・。分かった。」

「父ちゃんは長野に手伝いに行ってるからあんたしかいないのよ。」

「あ~とりあえず掃除してからだから、到着は何時になるか分からないって伝えといて。」

「はいはい分かったよ。」

「じゃよろしく~。」

「はーい。」

通話終了。

「今のお母さん?」

「違う。師匠の奥さん。14の時からお世話してもらってるから母親みたいなもんではあるけど。そんで聞いてたから分かると思うけど明後日イナゴの集落に行くことになっちゃった。」

「別にいいよー。洋服も汚れた時用に余分に持ってきてるし。」

「助かるわぁ~。そしたら集落で一泊して帰りに寄れたらブドウでも買いに行こうか。」

「ブドウ!行く!」

アオバの表情が一気に明るくなった。

「よっしゃ決まりね!」

二人は食事を再開する。

マツリはアオバの様子を見て思った。

(多分イナゴって地名かなんかだと思ってるっぽいけどまあいいか。)と。


午後は話していた通り除草剤を撒いてその日の作業を終了した。

テントに戻り今日はマツリが先にお風呂に入り、その後で夕食の用意をする。

白菜にシイタケ、肉とうどんを突っ込んで鍋の素と水を入れて火にかける。

洗い物をしている最中にアオバがお風呂から上がってきた。

「鍋?」

キッチンをのぞき込んでアオバが聞いてくる。

「そう。料理のセンスはないからね。シンプルに間違いないものを作らないと命に関わる。」

アオバはフフッと笑いつつ、マツリだからなぁ~と納得した。

彼女は火加減が分からない人なので、なんでも生焼けか焦がすかのどっちかに寄ってしまう。

煮込むだけの鍋は安全に食べられるマツリの数少ない料理なのだ。

アオバが髪を乾かし終わったところで夕食は出来上がった。

「おいしそう!何味?」

「豚骨。」

「最高。」

疲れた体にがっつり系はうれしい。

こたつの上に料理を並べて夕食開始だ。

「いっただっきまーす♪」

「いただきまーす。」

それぞれが取り皿に具材をよそっていく。

「ねね。明後日行くイナゴの集落ってどんなところ?」

マツリは待ってましたというような様子でニヤリと笑った。

「キメラ族の集落だよ。」

「キメラ?キメラってあの動物と動物を合わせるやつ?」

「そう。そのキメラ。その集落にいる人たちの大部分はキメラなの。」

ピタッとアオバの食べる手が止まった。

「待って。もしかしてイナゴってさ、あのバッタみたいなイナゴのことだったりする・・・?」

恐る恐る聞いてみる。

「大当たり♪」

顔がサッとこわばった。

「ぇ・・その集落の人ってさ・・・。」

「人とイナゴのキメラ。」

間髪入れずにマツリが答える。

ニヤニヤ顔が憎たらしい。

「いやあぁーーー!無理!無理無理無理無理!私絶対いけない!」

アオバは大慌てだ。

虫は大の苦手。

マツリだって知っているはずなのに、わざと黙っていたに違いない。

「大丈夫だって。思ってるより人間寄りの見た目だから。」

アオバの様子が面白いらしく、マツリはケタケタと笑いながら答える。

「いやいやいや仮面ライダーみたいな感じじゃないの!?私ダメなんだけど!」

そう言われてマツリはアオバがどんなのを想像しているか理解した。

「仮面ライダー・・・あーああいうのとは違うよ。骨格とかがちょっと違うけどちゃんと人間色してる。」

「人間色・・・。」

「それにもう二人で泊まるって連絡しちゃったから変更するのは悪いよ。」

絶望しかない。

「うわあ・・・これはやっちまった・・・。」

昼間に気軽にいいよーなんて返事をした自分を恨む。

何故その時に気づかなかったのか。

テンションが一気に急降下していく。

「どっちにしてもこの仕事をしてたらいつかは会わなきゃいけないんだから諦めな♪」

「えぇぇ・・・。」

アオバは泣きそうだ。

その後もいくつか質問したが行ってみれば分かると返されるばかりで不安は募っていった。

頭の中では仮面ライダーの顔に胴体には手足が何本もついていて、両腕はカマキリのカマのような化け物が浮かんでいる。

実際のイナゴにカマなんてついていないのだが、昆虫のイメージとして浮かんでしまうようだ。

そんな想像ばかりしてたので夜はなかなか眠れなかった。

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