第2話 陰陽師とは
テントの中をある程度整理したのち、二人は草刈りに取り掛かった。
マツリが電動草刈り機で草を刈り、アオバが熊手を使ってその草を一つの場所に集めていく。
集めるのは重労働だったので、アオバは時折休みながら続け、途中から刈り終わったマツリと一緒になって終わらせた。
刈り取った草は大きめの青いビニール袋に入れていく。
明らかに見た目以上の量が入るので、風呂敷と同じ魔法がかけられているのだろう。
マツリいわく、この青袋はごみ専用で入れることはできるが取り出すことは出来ないようになっているそうだ。
焼却炉にこのままポイと投げ入れる用で、その分安価なのだとか。
あと少しで終わるという頃に、マツリが先にお風呂に入って休んでいいと言ってくれたので甘えることにした。
庭仕事なんてやったことがなかったアオバは来るまでの山登りもあって人生で一番クタクタだ。
正直、草刈り後半は動きがおっくうになり、あまり役に立ってなかったと思う。
それでも文句も言わずにいてくれたマツリには感謝している。
テントに戻るとお風呂へ直行した。
汗だくの服を脱ぎ捨て風呂場に入ると、嗅ぎなれたにおいが鼻をつく。
北山村の温泉のにおいだ。
とん挫してしまったが、観光の目玉になる予定だった温泉は今も健在だ。
マツリの住んでいる温泉宿には露天風呂があるし、アオバの住んでいる温泉まんじゅうの店舗にも温泉のお湯が来ている。
(きっとお饅頭を作るために引いたのだろう。)
アオバがあの店舗に住むことに決めた理由の一つだ。
このテントのお風呂からもそのお湯と同じ匂いがする。
湯船につかると疲労困憊の体にしみわたって最高にリラックスできた。
存分に楽しんだ後、お風呂から上がって居間に行き髪を乾かす。
来た時と違い、居間にはマツリの部屋にあったこたつや冷蔵庫なんかが置かれて生活感が出ていた。
少しすると入り口から音がしてマツリが入ってくる。
「やーっと終わったわ。あ、アイスあるから食べていいよ。」
そういえば言ってたなと思い出しつつテンションが上がる。
「やったー!ありがとう!お風呂も温泉のお湯で最高だったよ。」
「でしょ~?露天風呂からたくさんとってきました♪」
どういう仕組みなんだかいつも通り不思議だが、やっぱり魔法ってすごい!
「あたしは風呂入ってくるわ。」
「いってらっしゃーい。」
マツリがお風呂場に消えると、アイスを食べるため冷凍室の扉を開ける。
「うわ、全部ハーゲンダッツ。」
そこには様々な種類のハーゲンダッツがきれいに重ねて何十個も並べられている。
少し悩んだがストロベリー味に決めた。
それにしてもマツリはお金持ちである。
歳は34と聞いているが、年齢に見合わないお金の使い方をしている。
アオバが移住した時に電気を確保したくてポータブル電源を購入しようとした。
が、ソーラーパネルとセットで30万円を超えるのでとても買えなかった。
そのことを彼女に言うと持っていたパネルと電源のセットをポンとくれたのだ。
ないと不便だからと言っていたが、数十万のものを簡単に人にあげてしまうなんて金銭感覚が狂っていると思う。
貰う方もさすがに気を遣う。
お金を分割で払うと言ってもいいよいいよ気にしないでの一点張りで、それでも引かずに言うと給料がとてもいいからなんでもないと言う。
陰陽師というのはどれほど良い給料なのだろうか。
そう、陰陽師。
最初に聞いたときは詐欺師の一種かと思ったが、ちゃんと国家組織でマツリが公務員だと分かって驚いたものだ。
アオバはマツリの助手という立場で雇ってもらったが、学歴も経験もない21歳が手取りで月額30万ほど貰っている。
新卒の給料が手取り18万ほどであるのを考えると破格の待遇だろう。
マツリ曰くそれでもかなり安いらしい。
助手がこの待遇なのだから、マツリのような陰陽師はさらに良い待遇であることは想像に難くない。
まあ、高給なのにはそれなりに理由もあるようだが・・・。
アイスを食べながら考えていると、マツリがお風呂から上がってきた。
「あたしも食べよーっと。」
彼女は冷凍庫を開けると抹茶味を取り出した。
「今日のご飯はどうする?」
食べ終わったアイスのごみを片付けながらアオバは聞いた。
「何にしようか。今日はこれから作るのはしんどいから冷蔵ピザは?」
「いいよ~。じゃあ温めるね。何枚?あと味は?」
「あたしは1種類ずつ3枚。アオバも好きなだけどうぞ♪」
「1枚で大丈夫です。」
よく食べるな~と感心しつつ、ピザをトースターにセットする。
だんだんバジルのいい香りが部屋に広がっていった。
「はい、出来たよ。ねえねえ、陰陽師って幽霊を退治する仕事なんでしょ?」
ピザをこたつに並べて次をトースターにセットする。
「幽霊退治というか魔法の困りごと全般を解決するのが仕事。その中に幽霊退治とかも含まれてるんだけど・・・、そもそも幽霊とかの正体は魔法なんだよ。」
「え、幽霊って魔法なの?」
「まず魔法がなんなのかってことから説明しなきゃだね。魔法ってのは魔力によって生み出される現象のこと。じゃあ魔力はなんなのかっていうと、それは魂が発するエネルギーのことなの。」
「エネルギー?」
「そう。太陽が出す光エネルギーとか炎の熱エネルギーとかそういうのと一緒。」
へぇ~と頷きつつ、マツリの説明に聞き入る。
「だから命あるものはみんな魔法が使えるわけだな。」
マツリはアイスを食べ終えてピザに取り掛かった。
豪快に半分にちぎると端と端を折りたたんで三角サンドのようにして食べていく。
「うっそだ~。だって私とか魔法使えないじゃん。」
「いや使える。なんで普段使えないかっていうと魔法を発動させるのに十分な魔力を魂が生み出してないから。魔力の量は身長の高い低いとかと同じで個人差があんの。アオバは魔力の少ない人ってこと。」
「じゃあ魔力はあるのね?でも少ないなら結局使えないじゃん。」
「そうでもないんだな~。例えば火事場の馬鹿力ってあるじゃん?危機が迫った時に普段より力を発揮できる現象。あれって魔法なんだよ。」
「え、そうなの?」
アオバは意外に思った。
火事場の馬鹿力は色々な場所で見聞きすることだ。
「うん。危機が迫ると生存本能から魂が活性化するのね。そうすると普段より生み出す魔力の量が多くなって魔法が発動するってわけ。そうするといつもなら出来ないことが出来てしまったりする。それが火事場の馬鹿力。この魂の活性化のことを命が燃えるとかって言い方もするね。」
「命の危険に反応して魔法が発動するってことか。」
「まあ命の危険だけではないけど、それに相当するような魂を活性化させる事象が起きた時に発動する。ただそういう時の魔法は問題のあることも多い。普段から魔法を使ってる人は魔力量が十分だからちゃんとした形で魔法が発動する。だけど普段魔法が使えない人が発動させると、魔法なんて使ったことないから不完全な形のエラー魔法が発動してしまう。」
「エラー魔法?」
次から次に新しい情報が出てくる。
アオバはピザを焼いて皿にに移してを繰り返しながら聞いていく。
「そう、エラー魔法。例えば命の危機だと死にたくない!って気持ちになるじゃん?死にたくない=生きてる状態で留まりたい=今の自分自身を維持したいっていう感じの魔法が掛かる。でもいくら魔力量が増えたといっても所詮は少ない量なのよ。結果、中途半端な生きてる状態になってしまう。」
「中途半端?」
「魂だけが生きてる状態で肉体はその場でダメになってしまうことが多いね。幽霊のイメージって白い透明な感じがあるじゃん?あれって肉体が無くなっちゃったから、中途半端な魔法が一生懸命に自分の形を作り出そうとしている状態だったりするわけよ。」
幽霊の正体に驚きだ。
「じゃあ、幽霊って魂だけになった状態ってこと?」
アオバは自分のピザが出来上がっていたが、話の方が気になってなかなか食べれない。
「魂だけだったり、その魂も一部しか残せてなかったりね。なにもかもが中途半端。しかもとっさに発動出来ただけだから終了のさせ方なんて分からない。しかも細かい条件設定とかもないから、出来ることがなくてその場に留まってるだけ。反射で発動させてるから叫び声とかポルターガイスト現象がうっかり入ってたりすると最悪。そういうのが出会った人達を驚かせたりして迷惑かけるってんで、あたしら常桜殿(じょうおうでん)の陰陽師が魔法を解除しに行くって寸法よ。」
マツリは二枚目のピザに取り掛かりながら続ける。
「仕事をしていくうちに強制的に分かってくるよ。確かに幽霊関係は多いけど、他にも魔法が関係する問題がたくさんあるから。」
アオバはへえ~と感心しつつやっと自分のピザを食べ始める。
マツリはピザを一度置いて冷蔵庫へ向かい自家製麦茶を取り出して聞いてくる。
「飲む?」
「飲む!」
アオバはそう言うと、振り返って簡易キッチンのシンク横からコップを二つ持ってくる。
「常桜殿ていうのは会社名?」
トクトクとつがれる麦茶を見ながらアオバが聞く。
「そんな感じ。実際は皇室の直轄組織だから違うんだけど、会社と思って考えるとわかりやすいね。」
「皇室と関わりがあるの?じゃあ皇族の人に会ったこととかある?」
アオバの目が好奇心できらっと光る。
「ないよ。そもそも皇室とのやり取りは宮内庁の担当を通してやるんだよ。皇族の人たちと直接やり取りすることはない。」
「なんだ~。ちょっと会えるかもって思ったのに。」
一気にがっかりとしぼんでいく。
「会ってどうするのw芸能人でもないんだから面白くもないでしょw」
アオバの反応が面白いのか、マツリが笑いながら言う。
「いやなんとなく会ってみたいじゃんw」
「正月に皇居にいきなさいw」
「いやそこまではしないで良いかな~。」
「さらっと失礼w」
最後は二人して笑い合った。
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