第4話 王国最強

 私の本拠地はアルパ王国の王都クリエラだ。郊外に事務所を構えている。できるだけ目立たないようにしているのだが、客足が遠のくことはない。


「ローデシアから帰ってから忙しかったし、ゆっくりしたいんだけどね……」


 午前中の依頼を捌き切ると、嫌な魔力が近づいてくるのを感じた。


「うげっ、エルディ・イーゼルベルク……」


 もはや魔力の質だけで分かってしまう。剣聖の家系に生まれ、王国最強の騎士と誉れ高いのだから、その魔力もまた特徴的だ。


 ギラギラとした光属性の魔力。それに、地水火風四属性の魔力もまんべんなく混じっている。まさに天恵と言う他ない素養。


 うらやましいし、なんかムカつく。


「エレノアさーん、いるんでしょう? 顔を見せてくださいよー」


 エルディは大声で呼び掛けてくる。頭に響くので不愉快だ。


「ちょっと相手しといてよ」


 私はトレースゴーレムを一体起動し、窓から放り投げた。


 トレースゴーレムはその名の通り、特定の個人の武技、魔術、スキルを完全にトレースした自動人形だ。


 前にエルディが来たときスキャンしてやった。


 王国最強の実力をコピーできれば、大幅な人員削減が可能だしね。さすがに殺すわけにはいかないので刃引きしてある剣を持たせている。


 互角に打ち合える相手がいることに、エルディは驚いているようだ。だが、エルディの実力は想定以上だった。


「ふんっ!」


 なんと、剣を棄てて右拳を振り抜き、トレースゴーレムの頭部を粉砕していた。


「くっ! 私の研究成果がっ!」


 脳筋にもほどがある。完全にエルディの実力をコピーしたはずなのに、こいつ、この一瞬で成長しやがった。


 まだスキャンしてから1ヶ月だ。その程度の期間でも、こいつにとっては充分な鍛練の期間なのか?


「さて、エレノアさん。試練は乗り越えました。話に応じてくれますか?」


「残念。同等の実力のがあと100体いるわ」


 私が圧縮魔術を解除すると、100体のトレースゴーレムが解き放たれた。


「えっ、マジですか」


「マジよ。それにこの子たちは龍脈から吸い上げた魔力で動くから、疲れを知らない。どっちが先に倒れるか、子供でも分かるわ」


「ならば! 我が最終奥義で蹴散らすまで! 剣技【断雲】」


「なっ!」


 断雲は一個大隊を壊滅させた究極の一撃。街に被害が出る。


「分かった分かった、降参! 話聞くから!」


「やっと応じていただけましたか!」


 エルディは剣を納め、微笑んだ。


 悪気なしかよ。余計に質が悪い。


「実は、明日の諮問委員会に出席して頂きたいんです!」


 またしても厄介ごとの予感がした。

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