異世界学園アナーキー:反逆者達の英雄譚

平岡夏子

立ち上がれ

目が覚め、気が付いたら地面に倒れていた。

 頭に激しい痛みが襲う。我慢できず地面の上で呻きながら頭に手を置いた。世界が歪む様な…自分自身が大気に溶けていく、嫌な感覚だった。


「ゴホッ……こ、ここは……」

 右手で体を支えながら立ち上がろうとする。起き上がろうとしても起き上がれない。随分の間倒れていたようだ。周りを見渡してみる。壁はセラミックのような滑らかさがあり小さい頃通っていた病院を思い出させる。


 ここはどこだ…?

 頭の中で疑問が湧く……すると次々と新たな疑問が湧いてくる。何故ここで倒れていたのか。ここは一体何処なのか。倒れる寸前、自分の身に何があったのか。


過去の記憶はある程度覚えてはいる。佐藤君と共にお茶会をしていた筈だ。だが倒れる寸前の記憶だけがない。理解ができない、信じがたいことだ。


やっとのことで立ち上がり辺りを歩き回る。真っ直ぐに歩き続けていると、横にあるドアの向こうから声が聞こえてきた。




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「……で……である。以上の事から質問…あるか?」


「はい、質問よろしいでしょうか」


「ああ、質問を許す。続けていいぞ」


「今回の計画についてですが、生徒会に敵対する勢力“マザー”の目に余る行為に対する制裁……という認識でよろしいのですね」


「そうだ。君たちも知っての通り、藤田が率いる“マザー”は授業妨害、無断欠席、生徒会顧問の教頭先生のズラを校門に晒す、そして……我等、生徒会のアイドル、マッキーを盗撮した疑い…等の大罪を犯している、これは許しがたいことだ」


 中でざわめきが広がってくる。「なんだって!?マッキーが盗撮されるだと…!」「許さねぇ、許さねぇぞ藤田!」、「私たちのマッキーが汚されるなんて…」という悲鳴が聞こえる。


「落ち着け、お前たちの悲痛は良くわかる……なんだってマッキーが汚されたんだ。これは許されることではない。故に、これは藤田への断罪である。……潰すのだ。」




「「「任せてください会長!!」」」





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 これは…かなりやばいな……。

 完全に生徒会を敵に回したようだ、流石にマッキーの生着替えを盗撮して売りさばいたのがまずかったのだろう……軍資金を調達するためとはいえ、マッキーファンの中にも生徒会の下っ端は少なからずいる。


 兎も角、ここから離れなければならない。今来た道を戻ろうとした瞬間、後ろから声が聞こえてきた。


「あっ!……あっはん、はぁあああんっ!!」


 視界の向こうで髭を生やした白髪の男性がいた。近くで見てみるとより鮮明にキモさが伝わってくる。見たところ男性は70代後半のようだ。全裸の上に白衣を着込み腰をクネクネと動かしており、一層キモさがにじみ出てくる。


「なにをしてるんですか、潰れてください」


 私は優しく変態に問いかける。それに騒がれては困るので、優しくオブラートに包みつつ紳士のように話しかけることにした。


「そんなとこで汚い逸物をさらけ出していたら環境汚染になりますよ、すぐさまブツを仕舞っていただけないのでしたら私が懇切丁寧に切り落としてあげましょう、新たな世界が見えるはずです……ええ、新世界が」


 私は完璧な紳士を演じた、これでたとえ灰色の脳みそが腐った変態といえどイチコロだ。

 普段から、かよわい女性が近くに居ると私は先ほどのように蜂蜜のような甘い言葉で誘惑をする。あの時の女性たちは完璧な紳士である私に照れているのか、黄色い声を挙げながら立ち去っていく。全く女性は可愛らしい、私みたいな完璧な紳士が世界の女性を助けてあげないといけないな。

 私は眼鏡を右手の薬指で押し上げる素振りを見せた後、変態に向き合った。


「やあ、藤田君。久しぶりだね、こんなところで何をしているんだい?」


 不審者がでかい声で話しかけてきた。私はあわてながら後悔する……


 「なんで話しかける前にヤらなかった」と。


それよりもこの変態、何故私の名前を知っているのだろうか。



「ああ、藤田君の事は学園内でも結構有名だよ。風の噂によると……“生徒会に歯向かう大馬鹿野郎が居る”ってね。それと君、心の声が口から出てるよ」


 …ッ!

 私は身構えながら変態を見据えた。

完全に私の心を読まれ「…だから声に出てるってば」ている。……危険だ。



「そんな身構えないでくれ、それより今日は君たち“マザー”に良い情報を持ってきたんだ」



「良い情報……だと?」



「うむ。さっき盗み聞きしたと思うが、近々生徒会が動く。しかもマッスルを引き連れてだ……」



「なっ、 マッスルだと!?」

 マッスルは本来、対・城塞都市戦にのみ使われる機動筋肉兵器だ。生身の人間ごときなら一撃で数千人は潰せる。そんなのを使われたらひとたまりもない。こちらは精々、武装したヒョロガリを数体配置するのが限界だ。

それよりもよく教頭が許可したものだ。私は教頭に恨まれるようなことは……ナニヒトツ、シテナイヨ?



「そうだ、事態は急を有する。ああ、ちなみに儂は教頭とは長い付き合いでね……奴の体中の黒子の位置すらわかるのだよ。それに儂は藤田君率いる“マザー”が好きなのでね、生徒会につぶされては困るのだ。……だから今すぐ対応して欲しい」


 どうやらこの変態は教頭が知られたくない情報まで知っているようだ。ありがたい、どこのジジイかは知らないが、力になってくれるのは嬉しいものだ。


「……わかりました、御力添えありがとうございます」

 私は素直に変態の言う事を聞くことにした。






      †   †   †









 藤田は昨晩みた、現実のような夢の出来事を友人たちに話した。

 流石に全裸の変態が夢の中に出てくるのは精神的に堪える、リバースしそうだ。そう思いつつ、気分をリラックスするため横に立っているナイスバディ佐藤をチラ見する。素晴らしい、特に尻がいい。なんたって彼女の……etc.



「……と、いう夢だったんだ。きっとあれは神々の啓示だった筈だ、私は選ばれた人間なのだよ。諸君」

 私は頭の中が佐藤君でいっぱいになるのを必死に抑えつつ、話を元に戻した。



「黙れ藤田」

 私に対し暴言を吐いたこの男、鈴木琢磨は会議用折り畳み式テーブルに足を乗っけて踏ん反り返っていた。


「ほう……私のありがたい話を聞きそんな口と態度で聞けるとは。鈴木には調教が必要だと思わないかね、佐藤君」


「えーと…調教が必要なのは横に置いといて。その変態さん…が言っていた事が本当なら、生徒会がマッスルを連れて来るんだね」


「そういうことだ。今この時も生徒会はこちらへと近づいてきている。警戒を“厳”にしていた方が良いだろう。それにしてもあの変態は一体何者だったのだろうか……」

 私は眉間にしわを寄せながら考えていた。


「全裸の上に白衣を着込んだ変態って言ったら、理事長じゃないかな?」

 佐藤君が変態に覚えがあるみたいだ。だがそれは後で聞く事にしないといけない……理由は明白だ。

 私の目の前にいる“鈴木琢磨”という犬を今すぐ躾なくてはいけない。何故なら、犬が不始末をしてしまった場合、直ぐに躾をするのが主人の義務だからだ。……どんな犬でも調教という経験をして成犬へとなっていくものだ。



 私は両手を握りながら顔へと近づけ、深いため息をする。


「……そう言えば、鈴木には沙紗美スペシャルを提供してあげなくてはいけないな。―――――葵君」

 私は鈴木の横の方で腕を組んでいる女子生徒に声をかけた。犬には調教が必要なのだよ。



「あら……そんな事言っていいの、藤田? 鈴木の身の保証はできないわよ」

 葵と呼ばれた女性、松原葵は頬を紅く染め上げながら藤田の方へと顔を向けた。常時エロい雰囲気を漂わせているこの女は、蜂蜜より甘ったるい2つの水蜜桃を両腕で押し上げる。そんな仕草のせいか普段より色っぽく見える。だが、彼女は戦いの場になると気高き“パイオーツカイデー”へと変身する。彼女一人でもマッスルと対等に渡り合い、そして撃破することが可能だ。


 マッスルについて解説しなければならない。

マッスルとは、ヒョロガリと呼ばれる模範生徒にヤクブーツを与えた奴のことをいう。ヒョロガリはマスコット的な存在だが、マッスルは民家程の大きさになるので可愛くない。その分、恐ろしいほど脅威だ。

ただの人間がマッスルを相手にしたら愛のあるハグで、一瞬でミンチになるのは言うまでもない。


 ちなみに“マザー”の地下拠点では野生のヒョロガリ、模範生徒がうろついており、その内の数匹は葵専用のヒョロガリである。



「ああ、構わない。全力で楽しんできてくれ」

 そうだ、鈴木には少しお灸を据えてあげなくてはいかん。それも体を覆い尽くすほどの馬鹿でかいお灸を……な。

可愛く、そして大事な仲間だからこそ必要な行為だ。許せ、鈴木……!



「や……やめろっ! お、俺は死にたくない。死にたくないんだ!!」

 鈴木はせまりくる葵君を跳ね除けるためにテーブルの上にある文房具を投げつける。中にはカッターや定規などが入っており少々危険だが、葵君には“パイオーツカイデー”特有の力場防御が働いている為、ビクともしない。



「あ~ら、藤田のそういうところは好きよ~。沙紗美がちょうど新しい器具を試したいって話してたの、良い素材が手に入ったわ。」

 葵君は左手で鈴木の髪を掴み、引っ張る。すると痛みを和らげようと頭は手前にくるので、すかさず鳩尾に右ストレートをくらわす。その後は全身の力が緩むので、両手を握り締めて頭へと振り下ろす。ガツンッという岩と岩が激突するような衝撃音がした後、何もなかったかのように葵君は鈴木を拘束する。



「ブベッ…、ひっ……う、うああああああああ嫌だあああああああああああ」

 葵君は鈴木の襟を掴んでドアの方へと引きずって行った。可哀想に、鈴木が費やしてきた金と努力は水の泡になるのだ。ざまぁ。



「あ、あれ?藤田君……鈴木君はどうなるの?」

 佐藤君は心配したような顔をこちらに向けてきた。困った顔も実に可愛らしい。後で、いじくりこんにゃくにしたい程だ。流石にかわいそうなので鈴木の今後の状態について話すことになる。できるだけオブラートに包むため、暫くの間できるだけ話す内容考える。



 先ほど話した沙紗美スペシャルについてだが、学園の地下深くにある我々、マザーの拠点で働くセクシー自動人形“沙紗美”の所有する拷問部屋“沙紗美ver.1.2”のスペシャルメニューの事だ。相手の精神を木端微塵に粉砕してくれる画期的な拷問であり、実に味わいたくない特製メニューである。



「……良くてケロイド状、悪くて灰になって帰ってくる事になるだろう―――――」



「え、それって色々とヤバいんじゃないの?運営にBANされちゃうよ」

 佐藤君が心配した顔でこちらを見つめている。ふむ、可愛い。少し遅れてから大事な部分を口に出すことにする。何せ心配した佐藤君の顔が見たいのでね。



「―――――鈴木の秘蔵“フィギュア”達が…だ。」

 やり方はえげつない。所有者を椅子に固定し、複数の男たちで顔押さえつけて所有者の瞼をこじ開ける。後は簡単だ、目の前で所有者のフィギュアを溶かしてく。コツは、各フィギュアの足の先からゆっくり溶かし、しっかりと確実に溶かし切る。目の前で恋人と言っても過言ではないフィギュア達が消えていくのを終始、彼は見続けるのだ。しかも黒頭巾を被った半裸の暑苦しい男たちに囲まれてだ。精神に異常をきたすのは当たり前だ。



「なんだ、なら大丈夫だね。あれ気持ち悪いのがあるから逆にグッドだよ!」

佐藤君は笑顔だ。先程まで小説のことを気にしていたのだろう、ありがたいことだ。フィギュアは買えばなんとでもなるだろうが、小説はそうもいかない。BANされたら終わりだ。



「さて、糞虫にも値しない野郎に邪魔されたが諸君。事態は深刻だ、今この時でも生徒会はマッスルを連れ、こちらへと来ている。このままではいずれ我々と衝突する事になるだろう、出来るなら避けたい。その時のために一分一秒たりとも無駄には出来ん……我々の仲間が一人でも多く助かるよう作戦を立てたい。力を貸してはくれないか?」

 私は彼らに問いかける。私を含め彼らも生徒会が行う無差別な横暴は許せん。故に私は問いかける。





「まかせろ藤田!」「おう!!マッスルなんて蹴散らしてやる!!」「金返せ!」「ヤってやるわ!!!!」「鈴木が…!鈴木が逃げたぞ!!!」「……潰す」





「よし、ならば決まりだ。……“エスケープ”の時間だ、諸君」

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