78.グレアート王国との戦争が始まった。

 湯気をもうもうと上げる血溜まりにドラゴンが伏している。

 クレイグはなんとか立ち上がり、竜の死体の上に登り身を休めている。

 ゴードヴェルは落下の衝撃で腰を痛めたらしく、上体だけを起こそうともがいていた。


 僕は剣を〈クレンリネス〉で清めてから、鞘に戻した。


「…………勝ったのか」


 ジワジワと実感がやってくる。

 僕が竜にトドメを刺したのだ。

 王都の被害はほぼ最小限だろう、城の一部が破壊されたくらいだ。


 そういえばユーリとルカは無事だろうか?


 足に力が入らなくなり、その場に座り込んでしまった。

 今更ながら生き死にを目前とした緊張で身体が震える。


 僕はそのまま大の字になって夜空を見上げた。

 月は輝き、星は点々と煌めく。

 美しい夜だった。




 その後、僕は自身を癒やしたゴードヴェルとクレイグのふたりに連れられて城内に退避した。

 魔術師団や騎士団がすぐにドラゴンの元へとやって来るだろうから、その場に学生の僕がいてはマズいという判断だ。


 城内でユーリとルカと合流することができた。

 ゴードヴェルも自分の護衛騎士たちと合流し、彼の個室へと一時避難することに決めた。

 ユーリとルカにカーレアに軽食を持ってくるように頼み、僕たちは軽く腹ごしらえをした。


 宮廷魔術師第一席の個室にあるソファで眠り、翌朝、僕らはアレクシス邸に戻ることにした。

 とにかくゆっくり休みたい、という僕とクレイグの意見が一致をみて、その日は何もかもを放り投げる勢いで泥のように眠った。




 どこまでをこの事件の後日談として語ればいいか悩ましい。

 魔導院は授業どころではなく、数日の間、その門を閉じることとなった。

 城の前庭にドラゴンの死体が飾られ、多くの見物客で賑わったのだが、見物客の中には僕と友人たちもいたとか。

 僕は疲労を見せずになんとかやり過ごし、魔導院が再び門を開くまでの束の間の休日を楽しんだ。


 イスリスは翌日の夕方には屋敷に戻ってきたが、クレイグとは数日ほど口をきかなかった。

 クレイグは「だから恨まれると……」とブツブツと愚痴を言っていたが、ある時から普通に会話をしていた。

 ふたりきりの父娘だし、イスリスも自分の安全のことを考えてのことだと分かっていたから、許してあげたそうだ。


 隣国グレアート王国との国境にあるオルスト王国の砦は、騎竜の空中からの襲撃と合わせて陥落してしまったそうで、今はグレアート王国の騎士団が占拠しているらしい。

 オルスト王国は宣戦布告もなしに攻めてきたグレアート王国を非難しつつ、開戦の準備を進めている。

 季節は冬の前、今から攻めるには時期が悪い。

 しかし攻めない手はない。

 攻められてそのまま放置すれば、国の威信に関わるからだ。

 だから砦の奪取はひとまず置いておいて、冬の寒さの影響の小さな南方から国境を侵す作戦が練られているらしい。

 さすがに僕は関わっていないから詳しくはないけど。


 ともあれ、グレアート王国との戦争が始まった。


 ◆


 第四章はここまでです。続きが気になる方はフォローと★を入れてくださると、作者のモチベーションが上がりますよ!!


 次回の更新は明日と明後日の12月26日、27日に幕間を更新します。それで今年の更新は終わりとなり、新年が明けて1月3日から第五章の毎日更新が始まる予定です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る