52.試合には確実に勝てる。

 なるほど、ならばこの現状にも納得がいく。


 ルーバットのギフトは言うならば【雷撃加算】といったところか。

 対象に雷属性のダメージを与える度に、次以降に与える雷属性のダメージが上昇するというもの。

 しかも上昇ダメージは累積していく厄介なものだろう。

 手数にものをいわせていることからほぼ間違いない。


 確実に命中させられる雷属性の攻撃魔術でこれをやられると、最終的には撃ち負けるかもしれない。

 準備時間が必要とはいえ、強力なギフトじゃないか。


 とはいえ今はまだ大丈夫。

 僕の魔術への抵抗力の高さとゴーレムの電撃への抵抗力がダメージを小さく抑えている。

 ただし、この戦術ならばそろそろ……。


「〈ライトニングバインド〉」


 継続してダメージを与えていく雷属性の拘束魔術だ。

 当然、継続ダメージも累積加算されていくのだろう。

 これはちょっと厳しくなってきたか?


 逸る気持ちを抑えつけて、ルーバットを追い込む手段を考える。

 正面からの撃ち合いだと最終的に負けるよな。

 短期決戦で仕留めるしかないが、それは相手も想定している流れだろう。


 ルーバットのゴーレムは〈ダイヤモンドダスト〉の凍結による拘束、僕のゴーレムは〈ライトニングバインド〉による拘束があって、両者ともに動きが鈍っている。

 ならばいきなり近接戦闘になったりする心配はない、このまま魔術戦が続くだけだろう。


「〈アースプロテクション〉」


 僕のゴーレムが行使したのは、雷撃によるダメージを無効化する防御魔術だ。

 当然、対策はされているだろうが……いやこれは。


 ……上昇分のダメージは無効化できていないだと?!


 ルーバットが撃つ〈サンダーボルト〉や、〈ライトニングバインド〉の継続ダメージ自体は〈アースプロテクション〉で無効化できている。

 しかしそれ以前に累積加算された上昇ダメージは無関係に与えられるらしく、無効化できていない。

 ということはルーバットのギフトは、雷属性のダメージを上昇させるのではなく、雷属性のダメージ発生をトリガーにして被害が累積する呪いのようなものか!


 ルーバットのギフトの正体は分かったが、これといった対策はない。

 回避と防御をしつつ、とにかく手軽な雷属性の攻撃魔術を連打する戦術。

 ダメージが増加していることに気づいたところで対処法はない。

 勝利するためには、逃げ撃ちし続けるルーバットを短期間で討ち取るしかないのだ。


「〈アイスセイバー〉」


 氷剣がルーバットのゴーレムのいた場所を薙ぎ払う。

 逃げ回りながらこっちが〈ライトニングバインド〉でくたばるのを待つ腹か。

 ダメージはもう無視できない大きさになっていた。

 実は〈ライトニングバインド〉を〈ディスペル〉すればこの継続ダメージを与えてくる拘束は外すことができる。

 ただし恐らく意味は薄いだろう。

 相手からすれば隙をみてかけなおせばいいだけなのだから。

 ともあれこれ以上、累積ダメージを増やすのも厳しくなってきたので、解呪せざるを得ない。


「〈ディスペル〉」


 さて少しだけ時間的な猶予を稼ぎ出せた。

 ルーバットのゴーレムが〈ライトニングバインド〉の詠唱をしようとするが、僕が〈アイスボルト〉ですかさず攻撃してやると、回避を優先してくる。

 出の早い〈アイスボルト〉を強要されているようで癪だが、再び〈ライトニングバインド〉をくらうのはまだ避けたい。

 ただこれで〈ダイヤモンドダスト〉の効果範囲から脱出されれば、追い詰めるのがさらに手間になる。


 仕方がない、やるか。

 僕は覚悟を決める。


 大きめの魔術を練るのを感知したのだろう、ルーバットのゴーレムが〈ライトニングバインド〉を放ってきた。

 再び拘束と継続ダメージを受けるが、もうどうでもいい。


 僕のゴーレムに練った魔術を行使させる。


「〈サイクロン〉」


 水属性、風属性、氷属性、雷属性の四属性の複合魔術、広範囲殲滅魔術〈サイクロン〉。

 目一杯の魔力を注ぎ込み、前方に雷を纏い雹が舞う竜巻が発生する。

 それは徐々に大きく激しくなり、巻き込まれているルーバットのゴーレムは徐々に削られていく。

 対面のルーバットが目を見開いた。


「〈アイスドーム〉」


 ルーバットのゴーレムが氷属性の陣地型の防御魔術〈アイスドーム〉を行使した。

 しかし氷の天蓋が形成されつつある端から竜巻で削られ、破壊される。

 無駄なのだ。

 闘技場には広さに限りがあるため逃げ場はなく、防御力・抵抗力の双方を要求する攻撃性能ゆえに半端な防御魔術は意味を為さない。

 つまりこの闘技大会における即死魔術に相当するのが、この〈サイクロン〉なのである。


 クレイグから予め言われていた言葉がある。

 〈サイクロン〉を撃つ事態になったら、敗北したと思えと。

 試合には確実に勝てる。

 しかし勝負の内容としては下の下、負けに等しい恥さらしだと。


 もちろん負けるよりはマシだ。

 だからこその切り札。

 削れていくルーバットのゴーレム。

 もはや打つ手なく、ルーバットは唖然としている。


 やがてルーバットのゴーレムが破壊された。


「決着ううううう!! 試合終了!! 勝者、マシュー選手!! 今年の闘技大会の優勝者は、なんとなんと、一年生がもぎ取ったあああああ!!」


 ふう、と息をついて〈サイクロン〉を止める。

 ルーバットを見れば、恨むように細くした目でこちらを睨んでいた。

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