51.ルーバットが笑みを深めた。
「お待たせしました、遂に今年の魔法大祭の花形競技、闘技大会の決勝戦です!!」
闘技場に張られた〈シャインフィールド〉の解除などを終えて、いよいよ決勝戦の準備が整ったらしい。
僕は扉を開けて、試合場に出る。
今回も控え室に戻ることはなく、更に逆側に位置を移動した。
僕の側の扉の先にはルーバットが控えていたからだ。
対面にゴーレムを連れたルーバットが現れる。
観客の熱狂的な歓声。
野次もここぞとばかりに飛ぶ。
僕とルーバットはゴーレムを闘技場に上げた。
「西から出てきたのは一年生のマシュー選手。東から出てきたのは二年生のルーバット・グラストル選手。最上級生を差し置いての決勝戦となりました。これについてはいかがでしょうか、クレイグ教授」
「……強い者が残った、それだけだろう。学年は関係ないな」
「なるほど!! それではいよいよ試合を始めますよ、いいですね? ――それでは試合、開始!!」
薄く笑みを浮かべているルーバット。
僕は気を引き締めてかかることにする。
「〈アイスピラー〉」
「〈サンダーストーム〉」
僕の初手は氷属性と地属性の複合魔術、氷塊を叩きつける攻撃魔術〈アイスピラー〉だ。
対してルーバットが唱えたのは雷属性の範囲攻撃魔術〈サンダーストーム〉。
突き進む氷塊を鮮やかに回避するルーバットのゴーレムに対し、僕のゴーレムは広範囲をまとめて焼く〈サンダーストーム〉に巻き込まれる。
しかしこれはルーバットの悪手だ。
確かに〈サンダーストーム〉は対象に確実にダメージを与えられるが、闘技場に立っているのは人間ではなく写し身のゴーレムなのだから。
特殊な粘土でできたゴーレムは接地しているため、電撃にはただでさえ強い。
そこに僕のステータス、つまり魔術抵抗力が加味されると、ほとんどダメージにならないのだ。
しかし次の一手もまた、ルーバットは雷属性の魔術を放つ。
「〈サンダーボルト〉」
矢の形状をした電撃を撃ち出す攻撃魔術。
対する僕の二手目は〈ダイヤモンドダスト〉だ。
雷撃の矢が僕のゴーレムに命中する。
雷属性は回避し辛い速度で飛来するのが強みだが、ゴーレム相手にはやや効きが悪い。
僕の〈ダイヤモンドダスト〉は綺麗にハマってルーバットのゴーレムを凍結させる。
だが何を考えているのか。
ルーバットの次の詠唱も〈サンダーボルト〉だったのだ。
下級攻撃魔術であるが故に出が早く、連打してくるのは鬱陶しいが、蓄積するダメージが小さければ意味がないと思うのだが。
〈ダイヤモンドダスト〉の術中にある間に追い打ちをかけたい、そう思って次なる魔術の行使をさせようとしたところで異変に気づいた。
……思ったよりダメージが大きい?
僕のゴーレムの被っているダメージが予想より少し大きい。
そう少しだけ、ただし無視できない誤差でだ。
この不可解な状況、魔術の連打だけで引き起こされたとは考えられない。
ならば答えはひとつ、ギフトだ。
戦闘に応用が効くギフトは厄介だ、こちらの計算を狂わせてくる。
このまま戦い続けていいのかどうか、戦術に間違いはないか、不安を呼び起こす。
「〈アイスセイバー〉」
逡巡する時間はない。
追撃の氷の大剣で薙ぎ払う。
さすがに直撃はマズいと判断したのか、大きく回避行動をとるルーバット。
去年の闘技大会戦闘記録の冊子は図書館で目を通した覚えがある。
ならば〈インプットメモリー〉で暗記しているはず。
「〈サーチメモリー〉」
戦闘中にやりたくはないが、この状況を解明するためには必要なことだと割り切るしかない。
脳裏に浮かぶ冊子の中身を読み取る。
とりあえず時間稼ぎに〈アイスピラー〉を放っておいた。
ルーバットは大きく回避することにしたようだ。
……不自然だな。
ルーバットの属性は風属性と氷属性と雷属性だ。
〈ダイヤモンドダスト〉の影響下にあるのに、何故【氷魔法】を使ってこない?
隙あらば〈サンダーボルト〉か〈サンダーストーム〉のいずれかを放ってくる。
そしてダメージの蓄積具合が段々と僕の感覚から乖離していく。
徐々にダメージが大きくなっていないか、これ?
昨年の準決勝戦、ルーバットはやはり雷属性の攻撃魔術のみを使用していると、去年の闘技大会戦闘記録の冊子にあった。
準決勝戦の相手の三年生に順当に実力負けしている。
いや、この書き方だと相手に結構なダメージを与えたように読める。
ギフトは百人いれば百通りあると言われるほど多岐に渡り、専門の研究家でもない限りすべてを知り尽くしている者はいない。
しかし現状と今まで見知ったギフトの知識から効果の推測は決して不可能ではない。
これは恐らく……、
「特定属性のダメージの累積加算……?」
ルーバットが笑みを深めた。
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