44.そう初戦の相手はトバイフだった。

 闘技大会で使う写し身のゴーレムは教師が用意する。

 数は十分に用意できるとは言い難く、実は闘技大会への出場は申請を出しても書類審査で落とされることがあるのだ。

 実質、それが予選みたいなもので、書類審査に通った者だけが闘技大会で戦うことができる。

 一年生からだと、僕と侯爵家の4人は書類審査に通っていた。


 闘技大会は全32名からなるトーナメント方式である。

 特に敗者復活戦や三位決定戦などはないため、負けたらそこで終わり。

 5回勝利すれば優勝という単純なものだ。

 組み合わせは無作為に決められるらしく、当日の発表となっている。


 魔導院には決闘場という施設が存在しており、闘技大会はそこで催される。

 決闘場は魔術師が1対1で対戦するときに使われる施設であり、中心の円状の戦場と、それを壁で囲った上に観客席が用意されている形になっていた。

 戦場には厳重に組まれた障壁が張られており、万が一にも観客席に攻撃魔術が飛ばないよう配慮がなされている。


 観客席にも限りがあるため、魔法大祭の三日目はチケット制だ。

 魔導院の学生には割引があるとはいえ、それなりの価格のするチケットを購入しなければ観戦できない。

 だから直接、見ずに後日無料配布される闘技大会戦闘記録という学生向けの冊子で内容を知れればいい、という学生が多数派である。

 というかチケットの数が決まっている上に争奪戦になるのは目に見えているわけで、多数の学生が観戦を諦めているのが実情だろうか。


 ちなみに貴賓席も用意されており毎年、王族がひとり確実にやって来るのが慣例となっている。

 その辺りが他の種目との大きな違いであり、魔法大祭の花形と呼ばれる所以だろう。

 予めクレイグから聞かされていたが、今日は王太子のウォルマナンドがやって来る予定になっているそうだ。


 イスリスに見送られて馬車で魔導院に向かう。

 イスリスはクレイグの伝手でチケットを入手しており、観戦に来ることになっていた。

 ただ侍従や護衛の分のチケットまでは用意できなかったので、イスリスひとりでの観戦となる。

 もっともイスリスはあのクレイグの娘である、護身用の魔術は叩き込まれているため、単独でも危険なことはないだろう。


 魔法大祭の三日目はチケットがなければ決闘場に入ることができないため、出場者や関係者、幸運にもチケットを購入できた観戦者以外は休日となっている。

 アガサはジュリィの実家が購入したチケットを与えられたため、観戦することができるそうだ。


 さて魔導院に着いた。

 教室に向かう必要はなく直接、決闘場に向かうことになっているのでそうした。

 決闘場内の廊下には、既にウルザとジュリィがいた。


「おはよう。ウルザ、ジュリイ」


「おはようマシュー」


「おはようマシューくん」


 ふたりは壁に張られたトーナメントの組み合わせ表を見ていたようだ。

 僕も横に並んで自分の名前を探す。

 無事に見つけて、初戦の対戦相手の名前を見て、ちょっと固まった。


 ウルザは僕が自分の名前と最初の対戦相手を見たことを察して、「トバイフも運がないわね」と言った。

 そう初戦の相手はトバイフだった。

 たった5人しかいない一年生同士が初戦で潰し合うことになるとは。


 ともあれよくよく見てみれば、一年生はジュリィが反対側にいる以外、割と近くにいた。

 順当に一年生が勝てば、二回戦はウルザとだし、三回戦はエドワルドである。

 ジュリィとは決勝まで当たらないが、どうにも偏ったトーナメント表になってしまったようだ。


 トーナメント表を確認した後は、各自に割り当てられた控え室に向かうことになっている。

 割り当てられた、と言っても個室ではない。

 決闘場には4つの控え室があり、ふたつを男性、ふたつを女性に割り当てられていた。

 控え室では教師が常に不正がないか監視をしており、出場者たちは緊張感に包まれた状態でいることになる。


 僕は指定された控え室に入った。

 既に数人の出場者がいたが皆、写し身のゴーレムとの接続作業を行っているのでチラっとこちらを見ただけで、手元の作業に戻る。

 僕は教師に挨拶して、自分の名前のあるゴーレムのもとへと向かった。


 素の写し身のゴーレムは制服を着せられたのっぺりした人型だ。

 僕はゴーレムの素体に手を当てて、接続作業を開始する。

 接続すると、今度は僕の身体をゴーレムが写し取っていく。

 やがて僕と瓜二つのゴーレムが目の前でダラリと脱力した状態で壁に背を預けて座った状態になった。


 ……うわ、ほんとにそっくりなんだな。


 鏡で見ている自分の顔がそっくりそのまま目の前にあるのはいい気分がしない。

 試しに立ち上がらせて、軽く身体を動かしてみる。


 ……うん、問題なしかな。


 僕は余計な魔力を消費するのを嫌って最初のように壁に背を預けさせてゴーレムを座らせた。


「なんていうか、慣れた感じで動かしていたなあ」


 声をかけてきたのは、二年生のルーバットだった。

 瓜二つのゴーレムの胸の辺りに手を当てていたルーバットは、ゴーレムから手を話して伸びをした。


「ん~、この接続作業ってのが気持ち悪いんだよなあ。自分のステータスを写し取られる感じもさることながら、外見まで似せる必要あるか?」


「それには同意です。ここまで瓜二つに似せる必要はないですよね」


「だよなあ。作った奴は何を考えてたんだかな」


 僕は何気なく壁に張られたトーナメント表を盗み見た。

 ルーバットとは反対側だ。

 対戦するとしたら決勝戦か。


 ルーバットは気さくに話しかけてくるので、しばらく雑談していると、控え室に闘技大会の関係者を表す腕章を付けた生徒が入ってきた。


「間もなく開会式が始まります。各自、ゴーレムを連れて入場してください」


 さて、闘技大会が始まる。

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