38.僕のテンションを一気に上げてくれた。
魔導院が誇る図書館は読んだことのない書物がズラリと並んでおり、僕のテンションを一気に上げてくれた。
かつて父が書庫の本を間に挟んで魔術について講釈をたれていたことを思い出す。
司書として雇われているのは、どうやら魔導院を卒業した経歴をもつ女性で名前をベラレッタというらしい。
「今年の新入生の首席は真面目なのね。図書館の使い方について説明させてもらえるかしら?」
「よろしくお願いします」
ベラレッタから図書館の使い方についてレクチャーされる。
主な注意点は2点。
まず館内で読む分にはタダだが、貸し出しとなるとひとり一冊までで、有料だ。
また禁帯出本という貸し出し不可の資料などもあるとのこと。
このくらいだろうか。
魔導院の授業がある日の日中は常に開いているから、利用時間については気にする必要はなさそうだ。
「では早速、館内を見て回りたいと思います」
「はい。どうぞご自由に」
ベラレッタは入口にあるカウンターに引っ込んで何やら書き物をし始めた。
司書の仕事なのだろう、僕は気にせずに館内の見学に移った。
しばらく館内を手当たり次第に歩き、興味を引くタイトルの背表紙を見つけたら本棚から抜き取り、その場でザっと読む、ということを繰り返していた。
気になった記述や図表は瞬間記憶魔術〈インプットメモリー〉で暗記していくのだ。
そうこうしていると、知った声に呼び止められた。
「入学式が終わってすぐに図書館に来たのか。別に構わないが」
「あ、クレイグ、……教授?」
魔導院内だということもあって、取ってつけたように教授と呼ぶ。
クレイグは呆れた様子で僕を見やった。
「お前の魔術好きは俺も好ましく思ってはいる。しかし初日から意気込まずとも図書館は逃げない。それより人脈を広げろと言ったはずだが」
「ええと一応、四侯爵家の4人とは仲良くなりました」
「ふむ、放課後にひとりで図書館に来るような奴の言葉は信用ならん。そもそもたった4人だけか?」
「一応、平民の女子に知り合いがいたので、その子も数えれば5人ですね」
「知り合いだと?」
クレイグが警戒心を高めた。
さすがに説明が必要だろう。
僕は故郷の幼馴染であるアガサと魔導院で再会したことをクレイグに話した。
「……そいつは安全か?」
「はい。幼い頃の友人ですし、【生活魔法】しか見せたことはありませんから」
「……そうか、ならば良い」
クレイグは「閉館までいるようなことにはならぬように。今日は早めに帰ってやってくれ」と告げて立ち去った。
早めに帰れ、ではなく帰ってやってくれ、という言い回しに引っかかりを感じた。
誰のためにか、と考えれば自然とクレイグが気にする人物がひとりくらいしかいないことに気づく。
娘のイスリスだ。
……僕が早めに帰るとイスリスに何かあるのかな?
ともあれ初日に図書館三昧しても回り切ることもできないだろうし、キリもいいのでここら辺でアレクシス伯爵邸に戻ることにした。
伯爵邸ではイスリスが「入学祝いです!」といつもよりちょっとだけ豪華な夕食を用意してくれていた。
なるほどね、これを見越して遅帰りするなとクレイグは言いたかったわけか。
◆
第一章はここまでです。続きが気になる方はフォローと★を入れてくださると、作者のモチベーションが上がりますよ!!
次の更新は明日10月23日と翌週10月30日になります。第二章は幕間の翌日10月31日から毎日更新となります。
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