37.胃に穴が空かないことを祈っている。
アガサがウルザとジュリィと「お友達」になった。
ビクビクしているアガサが可哀想だが、ウルザとジュリィはそのうち慣れるだろうと楽観視しているようだ。
特にジュリィは僕の過去や父のことを知っているアガサを監視下に置こうとしている節がある。
正直、助かる面はあるので、悪いけどアガサはウルザとジュリィに慣れてもらうしかない。
講堂を後にする。
ひとつの学年、つまり毎年の入学者は定員が50人と決まっている。
教師や教授の授業を受ける教室は基本的に一年を通じて変わらない。
もちろん授業によっては運動場や訓練場、実験室などで行われることもあるが。
アガサはウルザとジュリィの間を緊張とともに歩いていた。
ちなみに僕はアガサとウルザとジュリィの前をひとりで歩いている。
ユーリたち護衛や侍従は最後尾を少し離れてついていく形だ。
教室に着くと、トバイフとエドワルドの元へ向かう。
ふたりはやや教室で浮いていた。
というか身分的に近寄りがたく、遠巻きにされていた、と言い直すべきだろうか。
ふたりは気にせずに会話をしているけど。
「あ、マシュー。彼女とはもういいのかい」
「うん。アガサっていうんだけど、ウルザとジュリィとお友達になったから、……ええとあっちに3人でいるね」
席は自由だ。
横長の机と椅子が階段状に配置された教室は、やはり最前列にトバイフとエドワルドしか座っていなかったことを考えて身分順なのだろう。
ウルザとジュリィの横で座って、僕に何言か視線で訴えかけているアガサに「申し訳ないが僕ではどうしようもない」という意思を込めて首を振ってみせた。
アガサはショックを受けた様子だったが、渋々というかふたりに逆らえない様子で最前列に座り続けることにしたようだ。
うん、人間、何事も諦めが必要なときがあるよね。
僕もここで最前列以外に座ろうものなら、トバイフから不思議な目で見られること間違いない。
覚悟を決めてトバイフの横に座る。
エドワルドはトバイフとの会話を打ち切った。
どうも僕が混じると無口になるらしい。
トバイフは突然、寡黙になったエドワルドを気にすることなく僕と雑談を始めた。
しばしトバイフと些細な雑談に興じていたら、教室に教師が入ってきた。
徐々に静になる教室。
教壇に立った女教師は、教室をぐるりと見渡した。
「私は魔導院の教師でこの学年の担任を任されたマドラインです。受け持ち授業は無属性魔法。……さて本日は入学式、お疲れ様でした。今日の日程は以上となります。明日から授業が始まります。しばらくこの教室にいますので、何かあれば個別に相談してください。それでは解散」
まくし立てるようにそれだけ言うと、退屈そうな顔で突っ立っている。
教室内には困惑の空気が満ちていたが、「解散ということならば俺はもう帰る」とエドワルドが立ち上がった。
トバイフはエドワルドに追従するように「そうだね僕も帰ろうかな。明日からよろしくマシュー。それじゃあ」と告げて立ち上がる。
「うん。また明日ね、トバイフ。エドワルド」
トバイフは笑顔を返してくれたが、エドワルドには無視された。
ふたりが席を立ったことで、背後の席の生徒たちもポツリポツリと教室を退出していく。
僕も席を立って、教壇に向かう。
「マドライン先生。質問があります」
「はいなんでしょう、マシューくん」
「ええと魔導院の図書館は空いているんでしょうか?」
「……早速、自習ですか?」
「自習をするかまでは分かりませんが一応、見ておきたいと思いまして」
「さすがは首席合格者ですね。今年の学生は例年より粒ぞろいだと聞いています。その調子で皆を引っ張っていってください。……図書館は魔導院の授業のある期間の日中は基本的に毎日、空いています。場所は分かりますか?」
「はい、生徒手帳にあった学内の地図はおおよそ暗記しましたから」
「それなら大丈夫ですね。では良い時間を」
「ありがとうございました」
僕はマドラインに礼を言ってから、ユーリたちの元へと合流する。
ちなみにアガサはウルザとジュリィに連れられてどこかへ行ってしまった。
彼女の胃に穴が空かないことを祈っている。
ちなみに生徒手帳というのは、入学式で配布された魔導院への所属を示す身分証明証だ。
中には魔導院の規則やら魔導院の敷地内の地図などもあり、トバイフと一緒に中を確認しあったものである。
僕は闇属性魔術の〈インプットメモリー〉という瞬間記憶魔術を使えるため、生徒手帳の内容はすべて暗記しておいた。
規則の方は形骸化しているものも少なくはないが、何かのときに役立つかもしれない。
地図はしばらくはお世話になるだろう。
というわけで、図書館を見に行ってきます。
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