34.なんで魔導院に。
「不肖、私めが新入生を代表して挨拶をさせていただきます。まず本日は私たちが長い間、夢見てきたこの魔導院の入学式に立つことができた喜びをこうして院長に伝える機会をいただけたことを大変光栄に思っています」
力みすぎないよう、声を出す。
「私たち一人一人がこの素晴らしい場所に集まることができたのは、多くの人々の支えと努力のおかげです。家族や友人、そして我々を支えてくださったすべての方々に、深い感謝の気持ちを表したいと思います」
カリスマスキルと演説スキルを意識することが大事だ。
「この魔導院での学びが私たちの未来にどれほど大きな影響を与えるかは、計り知れません。私たちは今、未知の世界に一歩踏み出し自分自身の可能性を広げる機会を手にしています」
練習通りにすれば、間違いはない。
「魔法や魔術を学ぶだけでなく、仲間との絆を深め、共に成長することが求められます。私たちはここでただ学ぶだけではありません。私たちの努力や成長が、魔導院の名を高め、未来の魔術師たちの礎となることを目指しています」
さあラストスパートだ。
「これからの学びの中で失敗や困難もあるでしょうが、私たちにはその全てを乗り越える力があります。仲間と共に支え合い助け合いながら、一歩一歩前進していきたいと思います。この魔導院での経験が、私たちにとってかけがえのないものとなることを信じています。院長、そして教授と教師の皆様、どうかこれから温かいご指導とご支援を賜りますようお願い申し上げます」
よし、あとは――。
「最後に、私たち全員がこの素晴らしい学びの旅を共に楽しみ、成長し続けることを心より願っております。どうぞよろしくお願いいたします。――ありがとうございました」
僕はやりきった。
壇上の院長は笑顔で僕と握手を交わす。
背後からは割れんばかりの拍手が聞こえてきた。
僕は所作に気をつけながら壇上から席に戻る。
座るまで気を抜くわけにはいかない。
澄まし顔のウルザと笑顔のジュリィの間の席に座った。
…………よし。
僕は無事に新入生代表挨拶を終えたのだった。
入学式を終えた後。
僕は四侯爵家の面々に囲まれていた。
「すごくよくできた挨拶だったね。マシューがひとりで考えたの?」
「まさか。ええとアレクシス家で普段、僕の勉強を見てくれている先生に手伝ってもらったよ」
トバイフの言葉に答える。
エドワルドは無言だが、僕の挨拶などに不満はないらしく、文句などはつけられなかった。
「さすがにクレイグ教授が考えたわけじゃないのね。普段、マシューが教わっている先生っていうのはどんな人なのかしら?」
ウルザの質問に少し考える。
王族と縁の深い侯爵家の関係者たちなら、ハーマンダのことを知っている可能性は高い。
だから僕は「魔導院を卒業した経歴をもつ女性の先生だよ」とだけ答える。
ジュリィは笑顔で「マシューくんの挨拶、格好良かったですね。惚れてしまいそうでした」と大胆な発言をする。
「それは……なんというか光栄です、ジュリィ」
ジュリィの距離の詰め方に苦慮していると、ジュリィはさりげなく身を寄せながら「あら、それだけですの?」と迫ってくる。
対応に苦慮していると、突然「マシュー!!」と声がかかった。
僕はギョッとしてその声の主の方を見る。
聞き覚えのある声。
なによりこんなところでは絶対に聞けない声だ。
しかし、――彼女は僕の方を見ていた。
「マシュー、ほんとにマシューなんだよね?」
「……アガサ? なんで魔導院に」
それは僕の故郷の幼馴染、アガサだった。
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