33.いやそんなもの見たい?
いよいよこの日がやって来た。
そう魔導院の入学式だ。
僕はいつも通りユーリとルカを護衛にして、侍女としてカーレアを伴う。
門までイスリスが見送りに来ていた。
「いってらっしゃいませ。マシュー先輩」
「はい、行ってきます。イスリス様」
「返す返すもマシュー先輩の挨拶が見れないのが残念です」
「ははは、練習で散々見たじゃないか」
「練習は練習ですもの。大勢を代表してする挨拶……四侯爵家の者たちの屈辱の顔とかも見れそうですし」
「……いやそんなもの見たい?」
僕が首を傾げると、御者を務めるユーリが「マシュー。そろそろ出すぞ?」と告げた。
「では改めて行ってまいりますね、イスリス様」
「はい。行ってらっしゃいませマシュー先輩」
馬車が発進する。
さて馬車から降りて魔導院の講堂へと向かう。
教師と在学生が案内に立っている。
僕は誘導されるがままに魔導院の敷地を歩く。
これからここで魔術を思う様、学べると思うと嬉しさが込み上げてきて思わず大声を出したくなる。
僕はここまでやって来たぞ、ってね。
もちろんそんなマネはしないけれど。
さて講堂の前にて待ち構えていたのは、ウルザ・イーヴァルディ……だけでなくジュリィ・ヘルモードのふたりだった。
心なしかウルザの表情が硬い、というか怒っている?
ジュリィは相変わらず微笑を浮かべている。
「マシュー。まずは首席合格おめでとう。やっぱりあなたが首席だったわね」
「ありがとうございますウルザ様」
「もう
「そう、だね。じゃあウルザ。よろしく」
僕がウルザと挨拶を終えると、ジュリィが半歩だけ前へと出た。
「マシューくん。私からも首席合格を祝わせていただきますね。おめでとうございます」
「ありがとうございます、ジュリィ様」
「あらウルザには様付けしないのに、私には様を付けるのですか?」
「だってウルザには様付けしないようにと言われましたから。ジュリィ様がお望みでしたら、様付けせずに呼ばせていただきますが」
「もちろん様付けは不要です、マシューくん。じゃあ一緒に講堂に入りましょう?」
「はい、ジュリィ」
身分を問われないというのは魔導院の規則ではあるものの、現実にはそうもいかない。
実際には上位の貴族には礼儀作法を欠かせないのだ。
だから許しを得なければウルザとジュリィを呼び捨てにするわけにはいかない。
ただ様付けをするな、と言った手前、僕にエスコートを望むような発言ももうしないようだ。
ウルザもジュリィも僕の両側を挟むようにして、一緒に講堂に入る。
身分を考えれば僕たち、あるいは四侯爵家の他のふたりが一番乗りかと思ったけど、そうではなく割と多くの学生がいた。
制服を改造している生徒はほとんどいないことから、平民か下級貴族だろう。
ちなみにウルザはマントにイーヴァルディ家の紋章が刺繍されているし、ジュリィはシャツにフリルが追加されていたりする。
「結構、人がいますね」
僕が疑問半分に呟くと、「多分、寮生でしょうね」とジュリィが言った。
「平民や王都に屋敷を持たない下級貴族の子弟は、魔導院の敷地内にある寮で生活をしているそうですわ」
「そうか、聞いたことはあります。なるほどそれなら早く講堂に着くのも当然ですね」
ウルザが「前の席が空いているわね」と呟いた。
「身分を問わない、とは言われているけど平民と下級貴族は最後列から座っているみたいだわ」
ウルザが期待外れだと言わんばかりにこぼした。
ジュリィは「染み付いた身分制度を崩すのはさぞ勇気がいることでしょう」とフォローなのかそうでないのか分からない一言で応えた。
「いくら身分を問われないとはいえ、僕たちが最後列の方に座ったら、きっと彼らは萎縮しちゃうんじゃないかな?」
「…………そうね。大人しく最前列に座りましょう」
ウルザが前を行く。
僕とジュリィはその後を追うようにして、講堂の最前列の方へと向かう。
入学式が始まるまでしばし時間がある。
その間、ウルザとジュリィに挟まれた僕はふたりと微妙な距離感のある会話を続けた。
仕方ないよね、だって今の僕は平民なのだから、四侯爵家のお嬢様を相手に気安い態度を取ることはできないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます