32.変な挨拶をして恥をかくのは僕だからね。

 ハーマンダの指示で仕立て屋で採寸してもらい、制服を作ってもらった。

 汚したりしたら〈クレンリネス〉すればいいのだけど、もし破れたりしたらそうもいかない。

 だから制服は予備も含めて2着購入した。


 魔導院の男子制服は黒と青を基調としたシャツとズボン、そして男女共用のマントからなる。

 マントは丈の短いものだが魔法防御力のある品らしく、それなりに値が張る。

 もちろん支払いは僕の後援者であるクレイグの財布から出るので、気にする必要はないのだけど。


「良くお似合いです、マシュー先輩」


 出来上がった制服が届いたので試着していたら、いつの間にかイスリスがやって来ていた。


「ああうん、ありがとうイスリス様」


「あら? 腰のベルト、剣帯を追加しているのですね。魔導院にもそのショートソードを差していかれるのですか?」


「うん。剣技は一応レベル4まで上がったし。王族として剣は必修らしいから帯剣していてもおかしくはないだろう」


「レベル4になっていたんですね。それなら剣を帯びていても不思議ないです。魔法剣士という奴ですね」


「そこまで大層なものじゃないけど……」


 実際、剣技はオマケでショートソードにはクレイグ監修のもと強力な魔術が付与されている。

 護身用にちょうどいいのだ。

 それに魔術師だからといって接近されたらお終い、というのはよくない。

 弱点は潰しておくに越したことはないだろう。


「マシュー様。試着は問題ありませんね?」


「うん。ありがとうハーマンダ」


「それでは着替えてください。イスリス様、そういうわけですので退出していただけますか?」


 イスリスは「分かりました。それでは私は勉強に戻りますね」と言って部屋を出ていく。

 さて着替えの練習だ。


 僕は両手を脇に広げて立つ。

 そこを侍女のカーレアが脱がしにかかる。

 僕は将来、自身で着替えをしないらしい。

 だから今からソレに慣れておくという意味で、カーレアが僕の制服の着替えを行うことになった。

 着替えをする方も練習が必要だが、着替えをされる方にも慣れが必要なのだ。


 テキパキと脱がされ、普段着に着替えさせられる。

 自分でやった方が早いし楽なのに、なぜわざわざ侍従に着替えを任せるのか分からない、と以前ハーマンダに告げたことがある。

 そうしたらハーマンダが「王族の着用する正装はとてもひとりで着れるものではありませんよ」などと脅された。

 どうも正装には複雑なルールが存在し、付けるアクセサリの種類などに細かく気遣わねばならないらしい。

 ひとりでは間違えも起こるが、複数の侍従が着替えに携わることで間違いは減らせるという理屈だ。

 なるほど、と納得してしまったので大人しく着替えを他人任せにする練習をしているわけだね。


 さていつもの普段着に着替えた。

 制服はカーレアが丁寧に畳んでクローゼットに吊るしてくれるところまでやってくれる。


 今日はハーマンダの指導のもと、首席合格者として行う入学の挨拶を考えるという課題をこなさねばならない。

 こういうことを完璧に行うのが王族としての仕事らしいので、ハーマンダの張り切り具合が凄い。

 きっと厳しい指導を受けるのだろうと今からちょっとウンザリ気味だが、変な挨拶をして恥をかくのは僕だからね。

 キッチリと挨拶を考えて暗記しなければ。

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