31.きっと毒にも薬にもならない情報なのだろう。
僕に首席合格を伝えて夕食を摂り終えたクレイグはその夜、屋敷に留まることなく魔導院に戻っていった。
どれだけ研究が好きなのか、と呆れもしたが、そのくらいでなければ魔導院で教授は務まらないのだろう。
教師と教授は共に授業を持っており学生に教える立場だが、教師と違い教授は自分の個室を魔導院に持っていて魔術の研究を行う方が実は本業だったりする。
教師から教授になる例は少なく、むしろ際立った成果を出した学生が教授になることが多いらしい。
僕は魔導院を卒業したら王族の身分を明かすことになるため、どんなに成果を出しても教師にも教授にもなれないけど。
夕食後、クレイグが夜だというのに明かりの魔術〈ライト〉を灯した馬車を出して魔導院に行くのを私室の窓から見送った僕は、【聖獣召喚】でソフィアを呼び出した。
相変わらず白い長い毛が美しいソフィアは、ベッドの上で丸くなって僕を見やる。
「どうした、主よ」
「うん。魔導院に合格したからその報告だよ」
「……抜けておるぞ。
「まあね」
この2年の間に魔術の勉強や王族としての教育を受けてきたけど、自分と契約した聖獣であるソフィアについても学んだ。
と言ってもクレイグに教えてもらっただけだけども。
ソフィアは俗に“猫の王”と呼ばれるあらゆる猫族の王様らしい。
その地位は猫の間では絶対であり、ソフィアを目の前にした猫はソフィアの命令に絶対服従するらしい。
ただこれ、普通の猫だけでなく猫娘族など亜人種にも効果があるところが凄まじい。
そもそも猫娘族は“猫の王”を神様の一柱として信仰しているというから、凄い話だ。
ちなみに虎人族も猫の一種らしく、ソフィアを信仰しているわけではないけれど命令遵守の効果はあるのだとか。
そんな亜人種をふたつも支配下に置いているソフィアは、この大陸の別の国にある虎人族や猫娘族が住む集落で神として君臨しているらしい。
君臨していると言っても、特に忙しいわけでもないらしいけれど。
ただ他国の集落のひとつを実質、僕は支配下に置いた形になるということでちょっとした政治的な波紋を呼んだらしい。
曰く、“猫の王”と契約した人間がいる、と。
それは猫人族にとっては新しい神の誕生に等しく、虎人族にとっても無視できない情報となって大陸中を駆け巡ったそうだ。
それが僕だという情報までは伏せられているので今のところ影響は何もない。
ただし王族になったら、その契約関係を公にすることが外交カードになるということらしいのだ。
ソフィアは「猫の情報網を甘く見るでないぞ」と退屈そうに告げた。
「別に首席だったことは隠すつもりはないよ。ソフィアにとって僕が首席かどうかは大して関係のないことでしょう?」
「まあな。主が首席かどうか、儂には関係のない話だ。猫ゆえに、な」
ソフィアはありとあらゆる猫が見聞きした情報を知る、という能力を持っており、かなりの物知りなのだ。
というか物知りを通り越して国家機密も当然という顔をして知っていたりするので、かなり凶悪な存在なのである。
ちなみに亜人種の王国が大陸にあるのだが、そこの王族は獣王族というライオンの亜人であるため、“猫の王”に情報は筒抜けだわ命令は絶対遵守だわで、恐れと同時に敬われているそうだ。
一国の王族を従える外交カード、ということだから僕のギフトはとんでもない聖獣と契約していることになる。
「とりあえず僕からは報告だけかな。ソフィアからは何かある?」
「ふむ。魔導院絡みでひとつ情報があるが、主が驚く顔が見たいので秘密にしておこうと思う」
「……そう。まあいいけど」
「うむうむ。まあ大した情報ではない。そのうち分かることだ。儂から聞かなくても良かろう」
一体、何を秘密にしているのか少し気にはなるけど、害のある情報なら明かしてくれるだろうから、きっと毒にも薬にもならない情報なのだろう。
気にするだけ無駄だから、ソフィアをひとしきり撫で回してから、送還した。
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