17.そんなのが出てきたら宿の部屋が壊れちゃう。
街には必ず丸1日以上、買い出しなどのために滞在している。
今回はたまたまとはいえ、僕の10歳が重なったので冒険者ギルドの資料室を使わせてもらう。
スキルの情報はここが一番、と聞いたことがあったからだ。
故郷の村でも知らないスキルが出ると、街の冒険者ギルドまで行って調べていた。
ユーリとルカには買い出しに行ってもらい、僕は資料室でスキルに関する本を何冊か取ってテーブルに置いた。
さて……載っているといいんだけど。
結論から言えば【八属性魔法】なんてスキルはどの本にも載っていなかった。
一体、これはなんなんだろうか。
ふたつ目のギフトの存在と対になっているようだから、ギフトについても軽く調べたけど【精霊王の加護】なんてギフトはどこにも記載がなかった。
【魔力隠蔽】については存在は知っていたけど、改めて確認してみた。
自分の魔力を他者の【魔力感知】から隠すというものだという認識だったけど、合っていたようだ。
【魔法範囲拡大】と【魔法範囲収束】は本にちゃんと載っているスキルだった。
【魔法範囲拡大】は魔法の範囲を拡大するという名前通りのスキル。
ただし魔法の効果は広げた範囲に比例して薄まってしまうらしい。
【魔法範囲収束】は逆に魔法の範囲を狭めて効果を高めるというスキルだ。
どちらもなかなか便利そうなので、今度から意識して使っていこう。
【合成術】と【分解術】はかなり古い文献に頼ることになった。
まず【合成術】は同じ素材をひとつに合成して、上位の素材に変換するというスキルらしい。
逆に【分解術】は素材を複数の下位の素材に変換するというスキルになる。
両方とも古の【錬金術】に連なる伝説級のスキルであり、最近は習得者がいないようだ。
それはそうだろう、薬草を複数集めれば上薬草になるなんて、馬鹿げている。
これを繰り返したら大量の薬草を合成して世界樹の葉が出来たなんてことが起こり得るのが怖い。
【合成術】と【分解術】については誰にも言わない方が良さそうだ。
【美的感覚】は割りと習得者の多いスキルらしく、多くのひとが美しいと思えるものを作り出したりするときに役立つようである。
スキルについて調べ終えた頃、ユーリとルカが買い出しから戻ってきた。
「おかえりなさい」
「おう、随分といろいろ調べたんだな」
「マシューくんなら凄いレアスキルとか持ってそうだもんね」
「あはは……そんなことはないんだけどね。名前通りのスキルも多かったし、でも確認はしておきたかった。そんな感じかな」
「そりゃそうだな。そこを雑にしないところはさすがマシューだ、分かっている」
「マシューくんなら当然だね!」
買い出しはちゃんと終わったので、宿に戻ることにした。
さてギフトがふたつあることは秘密にするけど、ひとつ目の【聖獣召喚】は使っておきたい。
だからユーリとルカに【聖獣召喚】は教えることにした。
僕の方はユーリとルカのギフトを知っているのだから、教えないのもアンフェアだしね。
「ユーリ、ルカ。ギフトを使うから先に説明しておくね」
「ん? 戦闘用のギフトじゃなかったのか。平時に使えるものとなると……なんだ?」
「ユーリ、そこはマシューくんが説明してくれるから。ギフトなんて星の数ほどあるんだから予想なんて無駄だよ」
ユーリは「そりゃそうだな」と納得して、僕の説明を待つ姿勢に変わった。
僕は【聖獣召喚】について説明する。
聖獣を召喚し、契約するというギフトはやっぱりとんでもないものらしく、ユーリとルカが「本当にそれ俺たちに話して良かったのか?」と問うてきた。
「僕はユーリとルカのギフトを知っているから、僕のも聞いてもらいたいっていうのがひとつ。あとはいざというときに頼れる戦力になるかもしれないから、今のうちに使っておいて契約したいというのがひとつ。護衛対象の僕が聖獣を連れているなら仕事に影響するでしょ?」
「そりゃそうだ。分かった、じゃあ召喚してみてくれ。聖獣かあ、色々と噂は聞くけどどんなのが出るかなあ」
「マシューくん。あのさ、聖獣って大きいのもいるよね? 宿の部屋の中で召喚するの?」
「…………大きいのって、どのくらいの大きさのがいるの?」
聖獣については詳しくはない。
冒険者ギルドで一応、聖獣についても調べようとしたけど大した情報はなかったのだ。
「噂でしかないけど……例えば聖竜とか? きっとドラゴンだよね」
「うわあ」
ルカの言葉に青くなる。
そんなのが出てきたら宿の部屋が壊れちゃう。
ユーリが「そりゃここじゃ危ねえな」と言った。
「どうせもうすぐ王都だ。この辺り、さすが王都が近いとあって治安がいい。もう隊商にくっついていくことはないだろう。明日からは3人で行こうぜ。そのとき街の外で召喚すりゃいい」
「だねえ。マシューくんの聖獣かあ。何が出てくるかなあ」
そういうわけで【聖獣召喚】はひとまずお預けになった。
あと今日の夜はお祝いだと、宿の食堂でちょっと豪勢な夕食を摂った。
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