16.なんでギフトがふたつもあるの!?

 イーヴァルディ領を出て幾つかの領地を通過し、僕たちの旅は順調に王都へと迫っていた。

 見たことも聞いたこともない食べ物と出会ったり、珍妙なお祭りに巻き込まれたり、怪しげな露天に並んでいる品々に目を奪われたり、ともかく故郷の村しか知らなかった僕には旅は刺激的であったのだ。

 ユーリとルカも故郷から離れた領地に来るのは初めての経験で、僕と一緒に旅を楽しんでくれている。


 王都が近づいている。

 それは旅の終わりと、ふたりとの別れを示しているのだ。

 寂しいことだが、ユーリとルカは僕の護衛を引き受けてくれた冒険者。

 仕事が終わったらお別れするのが決まりなんだ。


 さて僕らは王都まで残すところ僅かふたつばかりの距離にある街に辿り着いていた。

 隊商の護衛にくっついて街から街へと移動していたので、道中はかなり安全だったと言えよう。

 僕はといえば相変わらず〈クレンリネス〉をかけることで隊商の役に立っていたし、村々で〈クレンリネス〉をかける小遣い稼ぎをしていたから旅費はかなり節約できていた。


 隊商にくっついて街に入り、僕たちはお世話になった行商人や護衛の人たちに挨拶をして、宿を取った。

 そこそこ綺麗な3人部屋だ。

 綺麗好きなユーリとルカだから、安宿は選ばない。

 僕も汚い宿は嫌だから、この方針は歓迎している。


「もうすぐ王都だね。ユーリとルカは、僕を王都まで届けたらどうするの?」


「ああ、そうだなあ。王都見物をしてから王都の冒険者ギルドを冷やかして、またのんびり帰るかねえ」


「そうだね。マシューくんと初めて会った街、やっぱりあそこがホームタウンなんだよね」


「そうか……寂しくなるね」


 僕の声が思わず暗かったことで、ユーリとルカが心配そうな顔になる。


「生きていれば、また会うこともあるかもしれねえだろ。それに王都にいるマシューの親父の友人ってのもどんな奴か知れねえ。会いに行っても追い返されたりしてな」


「それは、……分からないけど」


「そう分からねえんだよ。だから俺とルカはしばらく王都を観光しているから、何かあったら俺たちを頼れよ」


「…………うん」


 ユーリが僕を慰めようとしてくれたことは嬉しい。

 でもやっぱり寂しいものは寂しいんだよね。




 その夜は妙な夢を見た。

 どんな夢だったかは思い出せない。

 でも大事な、とても大事な夢だった気がする。


 朝、いつも通りに起きて違和感を感じた。

 何か、脳裏に閃くものがあったのだ。

 それがなんだか、始めは分からずに戸惑っていたけど、すぐに気づいた。

 ステータスだ。


 そう僕は10歳になったのだ。


 愕然とする。

 この劇的な変化はなんなんだ。

 9歳と10歳で、ここまで大きく世界が変わるだなんて思ってもみなかった。

 今の僕は、昨夜までの僕にはできなかった色々なことが可能になっているような気がする。

 この全能感とも言うべき感覚。

 そうか、大人たちが10歳になってから旅をしたらいい、といつも言っていたのは、これを経験していたからなのか。

 9歳と10歳ではここまで大きく、違うものなのか。


 僕はベッドに上体を起こしたまま、ステータスを見る。

 初めてのステータスの閲覧だ。

 緊張する。

 僕のギフトは?

 ちゃんと魔術系のスキルが取得されているだろうか?

 僕は脳裏にステータスを思い浮かべる。


《名前 マシュー 性別 男 年齢 10歳 種族 人間

 ギフト 【聖獣召喚】【精霊王の加護】

 スキル 【八属性魔法Lv3】【生活魔法Lv8】【時空魔法Lv5】【付与魔法Lv1】

     【魔力制御Lv2】【属性制御Lv5】【魔力感知Lv4】【魔力隠蔽Lv1】

     【魔法範囲拡大Lv1】【魔法範囲収束Lv1】【瞑想Lv3】

     【錬金術Lv2】【合成術Lv1】【分解術Lv1】【匠の指Lv1】

     【カリスマLv1】【美的感覚Lv3】》


 え、なんでギフトがふたつもあるの!?


 【聖獣召喚】は1体だけランダムに聖獣を召喚して、契約することができるギフトだ。

 聖獣は幻獣より珍しく希少で、強力な生物だと聞いたことがある。

 【精霊王の加護】はどうやら八属性をすべて扱うことができるようになるというものらしい。


 さてスキルもちょっと見たことのないものが多いぞ。

 まず【八属性魔法】ってなんだよ!!

 普通は【風魔法】とか【炎魔法】とか属性ごとに分かれているものだ。

 なんでひとつしかないんだ、しかもレベルあんまり高くないし。

 【生活魔法】のレベル8って凄いね、普通はレベル5で一人前と言われるスキルレベルだから、それを超えるスキルレベルの持ち主はその道のエキスパートだ。

 つまり僕は【生活魔法】の才能があったというわけか。

 ちょっと微妙だなあ。

 【時空魔法】がレベル5なのは納得感があるね。

 【付与魔法】なんて使ったこともないから、これはステータスにくっついてきたものだな。

 【魔力制御】がたったレベル2しかないとはお粗末だ、確かに得意とは言えないけども。

 代わりのように【属性制御】がレベル5もあるぞ。

 複合属性の魔術が得意だとは思っていたけど、まさか【属性制御】がこんなに高いとは。

 【魔力感知】は【魔力制御】とともに父に鍛えられていたからレベル4あるのはいいとして。

 【魔力隠蔽】なんてしたことない。

 多分、これもステータスに目覚めたときに身についたものだろう。

 【魔法範囲拡大】と【魔法範囲収束】は知らないスキルだ。

 【瞑想】は魔力を回復するのに使うから、父から教わったものだね。

 【錬金術】は嗜み程度に父から習ったことがある。

 【合成術】と【分解術】は聞いたこともないスキルだ、何に使うんだろう。

 【匠の指】は生産系スキルにボーナス補正がかかる強力なスキルだね、育てていきたい。

 ていうか僕に【カリスマ】なんて似合わないと思うんだけどなあ。

 【美的感覚】ってどんなスキルだろ、やっぱりよく分からない。


 ともかくギフトがふたつあるってことはユーリとルカにも言えない。

 これは墓場まで持っていく秘密になるだろう。


「どうしたマシュー? 変な顔して」


 どうやら僕は百面相していたらしい。

 そりゃ朝っぱらからこんなとんでもないものを見せられたら驚くよ!!


「いや、実は10歳になったみたいで……」


「お、じゃあステータスか。どうだった、と聞くのはマナー違反か」


「あらマシューくんおめでとう。じゃあ今日が10歳の誕生日だね。お祝いしなきゃ」


「ありがとう。うん、ステータスについてはまだ僕もよく分からないものがあるから、後で相談に乗ってもらうかもしれない」


 ギフトのことは言えないけど、スキルについては聞いても大丈夫だろうか。

 一応、ユーリとルカに聞く前に冒険者ギルドの資料室でスキルについて調べる時間をもらおう。

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