10.八属性なら全部。
隣街までの途中にあるふたつの村で、僕は生活魔法を使って小遣い稼ぎをした。
相変わらず〈クレンリネス〉をかけるだけだが、銅貨10枚という値段でやりだしたところ、それなりに人が集まってきてくれたのだ。
もともと隊商が商売をしている横でのことだったので、人通りは多かった。
好奇心旺盛な村人を皮切りに、特に綺麗好きな女性から人気があり繁盛することに。
ユーリとルカは僕の護衛として後ろに立っていてくれた。
「おいマシュー。どうして銅貨10枚なんだ? 半銀貨1枚じゃないのか」
「安いわよね、どういうことかなマシューくん」
「うん、実は初め冒険者ギルドでもこの値段で、という話になりかけたんだよ。でも回数制限なしでこの値段だと、孤児のロックとクレアのお客を全部取っちゃうってナアナさんに言われて。それで半銀貨1枚になったんだ」
「あー。銅貨1枚で〈クリーン〉を使ってくれる孤児たちか。そりゃ銅貨10枚で〈クレンリネス〉を使ってくれるなら客が流れちまうか」
「ふうん。じゃあ適正価格は実は銅貨10枚だったってこと?」
「いや……どうだろう。魔力消費が少なくて数十人にかけられるって言って値上げしたから、もう少し高くてもいいかもしれない。ただ村だとこのくらいの値段じゃないと試してもらえないとも思うんだよね」
「そうだな。村だと確かにあまり高いと手がでないか。ただ銅貨10枚は正直、安い気がするな。街で同じことをするなら考えた方がいいぞ」
「うんうん。マシューくんの〈クレンリネス〉はもっと価値があるよ」
「ありがとう。そうだなあ、街では目立つし人も多いし、銅貨10枚で同じことはできなさそうだね。もっとも街でこの商売をしない手もあるけど」
わざわざ街で目立つことをするのはちょっと怖い。
最初の街での教訓だ。
少々の小遣い稼ぎをして、荷馬車に揺られて予定通り、隣の街へと辿り着いた。
「さて、まずは宿だな。この街だと『牡鹿の蹄亭』か」
「だねえ」
「ユーリとルカはこの街に来たことがあるの?」
「ああ。依頼で何度かな」
「そのときに見つけた宿が『牡鹿の蹄亭』だね。安い割りに良い宿なんだよ」
「そう。ならその宿にしようか」
隊商に別れを告げて、僕たちはまず宿を取りに『牡鹿の蹄亭』へと向かった。
幸い4人部屋が空いていたので、そこを借りる。
少しだけ割高になるが、護衛対象の僕とユーリとルカがバラバラになるよりマシだという判断だ。
「じゃあ俺は冒険者ギルドに顔を出してくる。ルカはマシューと一緒にいてくれ」
「わかったわ。よろしくね」
ユーリは情報収集のために冒険者ギルドへ行った。
残されたルカと僕は宿の部屋でのんびりとすることにした。
「マシューくんは魔術師の家系なの?」
「うん。ルカは?」
「私は神官の子だったの。だから10歳になる前から光魔法は練習してたなぁ」
「神官の子なのに冒険者になっちゃったの?」
神殿に務める神官といえば、就職先としてはかなり安定している。
特に回復魔法の充実している光魔法が得意なルカならば神殿も大歓迎だろうに。
「あはは……そうだよね。普通は神官になるものだよね」
「どうして冒険者になろうと思ったの?」
「誰にも言わないって約束できる?」
「……分かった、誰にも言わないよ」
「ユーリが冒険者になるって決めたから。私とユーリは家が近所の幼馴染でね。ユーリにはいろいろと助けられてきたから。恩返しがしたいの」
「恩返し……そんなに助けられたの?」
「うん。両親とも神官の家だったから、親が厳しくて。勉強勉強で息が詰まりそうになってたときに、こっそりと外へ連れ出してくれたり……まあ色々と助けてもらったわけ」
「そっか」
きっと本当に大事なことは口にしなかったのだろう。
まだ僕とルカはそこまで親しいわけじゃない。
「ちなみに冒険者になるとき、ご両親はなんて?」
「え? あはは……黙って出てきたから、きっとカンカンに怒っているわね」
「そ、そうなんだ」
ルカを連れ出したユーリはきっと、ルカの両親から凄く恨まれてそうだなあ。
「じゃあ次はマシューくんの番だね。どうして王都を目指しているの?」
「ああ、うん。父が亡くなったときの遺言で、自分に何かあったら王都にいる友人を頼れって。クレイグ・アレクシスっていう人なんだけど、どんな人かも知らないんだよね。多分、父のことだから魔術師だとは思うんだけど」
「ふうん。お母さんは?」
「僕が物心ついたときにはいなかったよ」
「そっか、兄弟もいない感じ?」
「うん。だから村を出て王都を目指すことにしたんだ」
「なるほどねえ。10歳を待とうとは思わなかったの?」
「村の居心地が良かったから、長居したくなかった、のかな。父がいなくなっても村できっと生活するだけならできちゃうから。でも僕は、魔術師として一人前になりたい。そのために王都へ行くんだ」
「そうかそうか、偉いねえ。〈クレンリネス〉が使えるってことは、光属性と水属性は持っているのよね。他には?」
「…………八属性なら全部」
「へ? 嘘、八属性全部!? それほんと!?」
「うん。ただ全体的にイマイチなのが悩みの種で――」
「いやいやいや。八属性どれも使えるって凄いから。ステータスが開いたらきっとその時点で凄い魔術師になるんじゃないの!?」
「だといいんだけどね」
下位属性である地属性・水属性・風属性、中位属性である炎属性・氷属性・雷属性、上位属性である光属性・闇属性のすべてを八属性と呼ぶ。
他に八属性以外に無属性や時空属性などがあるのだけど、無属性はともかく時空属性は希少だからさすがに言えない。
しかし父は当たり前のように八属性全部使えたし、僕も使えたんだけど。
世間では八属性すべてを使える魔術師は希少なのだろうか。
ルカがひとりで盛り上がっているところへ、ユーリが戻ってきた。
「騒がしいな。何か面白いことでもあったか?」
「それがね、マシューくん八属性、全部使えるんだって!!」
「はああ? なんだマシュー、凄いなお前。10歳前なのに既に一流の魔術師じゃねえの?」
「いや僕はまだまだだよ」
「謙遜するなよ」
「そうだそうだ」
「もう。で、ユーリ。冒険者ギルドはどうだった? 何か情報はあったの?」
「ん、そうだな。実は……次の街まで向かう隊商の出発が1週間後なんだよ」
それは結構、暇になっちゃうね?
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