11.本当に偶然なのかな?

 僕たちは街道を3人で進んでいた。

 次の街まで行く隊商の出発が1週間後ともなると、その出発を待つ時間で次の街に到着できるからだ。

 そもそも護衛依頼中のユーリとルカは他の依頼を受けることもできずに四六時中、僕についていなければならない。

 僕も〈クレンリネス〉を使った目立つ稼ぎ方を、護衛付きで1週間も続ける気にはなれなかったのだ。

 結局、ユーリとルカの実力を頼みに3人で次の街へ歩いていくことにした。


 まあ街道を進むわけだし、魔物はもちろん盗賊だって滅多に出ない。

 ……そう思っていたんだけどなあ。


「ルカ、マシューを守っていろ。俺は前に突っ込む!!」


「分かった。マシュー、近くに来て!!」


「う、うん」


 街道を塞ぐように展開する盗賊たち。

 頭目は中年の狼人族で、ブロードソードを持っている。

 厄介なのは待ち伏せていた連中を通り過ぎたため、背後にも盗賊が展開していること。

 つまりは挟み撃ちされているってことだ。


 言われた通りにルカの傍に寄ると、キィンという音とともに巨大な四角錐の結界の中に取り込まれた。

 今、詠唱なかったよね?

 ということはこれはギフトか!!


「私のギフトの【守護結界】よ。外からの攻撃は遮断するけど中からの攻撃は素通ししてくれる、便利なものよ」


「すごい!! それじゃあ……」


「ええ、背後には私が撃ちまくるっ!! 〈フレイムピラー〉!!」


 背後の盗賊たちの元に太い炎の柱が立ち上がる。


 僕はどうしようかな。

 前方は槍を振り回すユーリが盗賊たちを蹴散らしているし、背後にいる盗賊にはルカが魔術を撃ち込んでいる。

 あ、盗賊の頭目が部下を見捨てて逃げようとしている。


「〈チェーンバインド〉!!」


 頭目の足元からジャラジャラと鎖が生えてきて、脚に絡みつく。

 地属性と無属性の複合魔術〈チェーンバインド〉は鉄の鎖並みの強度を誇るから、脚をぶった斬る覚悟でもないと抜け出すことは至難だ。


 転びそうになっている盗賊の頭目の首にユーリの槍が届くまで、僕は拘束魔術を維持しておいた。




「よおし、片付いた。マシュー、悪かったな手伝わせて」


「ううん、あのくらいだったら僕でもできるから」


「マシューくんの魔術かあ、ちゃんと見てなかったなあ」


 ルカは背後に炎属性の攻撃魔術を連打してたからね。


「それもこれもルカのギフトで守ってくれていたからだよ。ありがとうルカ」


「いやあ。私のギフト、なかなか便利だったでしょ?」


「実際、ルカを守るのに人手を割かなくていいのはメリットだよなあ」


 ルカの【守護結界】は飛んでくる矢や魔術を尽く弾いていたから、かなりの防御力だ。

 それでいて魔術とは違い名前を唱える必要もないことから、展開時に隙がない。

 大きさもある程度は自在らしく、少人数なら守れてしまう便利さもある。

 とても実用的なギフトだった。


「ちなみにユーリのギフトは?」


「ユーリも凄いよ、ねえ?」


「……俺のギフトは【剛力】ってんだ。両手槍を片手で扱えるってだけなんでそう凄くはねえが」


 いや、それはなかなかに凄いのでは?

 ユーリの持っている槍は両手で扱うのが前提の長さだ。

 それをいきなり片手で振り回し始めることができるというのなら、戦術の幅が圧倒的に広がる。


「ふたりとも良いギフトを引いたんだね」


「でしょー。マシューくんならちゃんとユーリのギフトの良さも分かってくれると思ったよ」


「まあギフトのことは言いふらすなよ?」


 ギフトはステータスと違って当たり外れが大きいし、生命線になることもあるから普通は口外しないのだ。

 護衛対象である僕にだからこそ話してくれたんだろう。


「しっかし運がねえな。こんな街道のど真ん中で盗賊に待ち伏せされているとは」


「そうだねえ。ここ街と街を結ぶ街道だし、こんな規模の盗賊が出るなんて聞いてない。ユーリ、ちゃんと情報収集したんだよね?」


「もちろんだ。俺は盗賊が出るなんて聞いてねえぞ」


「そっか。じゃあ運が悪かったんだね私たちの」


 しかしこんな街道の真ん中に盗賊って……しかも連携もなかなか取れていたように思えるけど、本当に偶然なのかな?

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