9.雇った護衛はふたり。

 この街に来て1週間が過ぎた。

 市政役所に行ったらもう身分証明証はできていて、サインをして受け取った。

 これでこの街に用事はなくなった。


 これ以上の宿泊の必要はなくなったので、その旨を伝えた。

 ミアは「寂しくなるにゃー」と言ってくれた。

 その姿はどう見てもただの猫娘族だが、実は暗殺者だとこの宿の人は誰も思っていないだろう。


 冒険者ギルドではナアナさんに出発の準備ができたことを告げた。

 実は盗賊ギルドの偉い人から言われた通り、王都までの護衛を雇うことにしたのだ。

 雇った護衛はふたり。

 最初に〈クレンリネス〉のお客さんだった槍使いの男性と杖を持った女性だ。

 名前をそれぞれユーリとルカという。


 例の大捕物にも参加していた冒険者で、まだ二十歳にもならないのに中堅くらいの実力があるらしい。

 綺麗好きで毎日、〈クレンリネス〉のお客でもあったから顔なじみだ。


「じゃあ出発するってことでいいんだな、マシュー?」


「はい。よろしくお願いします。ユーリさん、ルカさん」


「さん付けはいらねえよ。ユーリとルカでいい。言葉遣いも崩した方が楽だろ」


「そうですか? じゃあよろしく、ユーリ、ルカ」


 槍を片手にしたユーリ、杖を両手で持ったルカがそれぞれ破顔する。


「ああ、よろしくな」


「よろしくね、マシューくん」


 かくして僕は、初めての街から旅立った。




 さて旅のお供が増えたわけだけど、実はもっと大人数での移動となった。

 ユーリが言うには、旅をするなら人数が多い方が安全だというから、隊商に加えてもらうことにしたのだ。

 隊商には護衛がついているし、戦える人数が増えることで盗賊や魔物が近づきづらくなるという恩恵を得られる。

 ユーリとルカはその実力を隊商の護衛に貸すことで、僕は〈クレンリネス〉を毎日全員に使うことで、隊商にタダで加えてもらうことができた。


「マシューの〈クレンリネス〉は本当にありがたいぜ。旅ではどうしても汗をかいたり砂埃で汚れたりするしな」


「だねえ。私もマシューくんの〈クレンリネス〉の虜だよ」


 ふたりは綺麗好きなので、もともとの護衛契約でも毎日〈クレンリネス〉をかけることになっていた。

 僕としては生活魔法をかけるのは負担にならないので、この条件は楽なものだ。


 隊商は隣の街までご一緒するのだが、荷馬車が幾つかあるので、僕はそのひとつに乗せてもらうことになった。

 子供の足では全体の移動についていけないかもしれない、と思われたようだ。

 僕としては楽ができていいから、素直に受け入れたのだけど。


「うう、お尻が痛い」


「揺れるし人が座るためにはできてねえからな。歩くのとどっちがマシかねえ」


「休憩のときに〈ヒール〉をかけてあげるよ」


「それは助かるよ、ルカ」


 光属性を得意としているルカは回復魔法の使い手だ。

 他に炎属性も使えるので、攻撃魔法も使えるとあって万能選手である。


 隣の街までは3日かかるそうで、途中の2日は街道沿いの村に寄るとのことだ。

 村でも商売をするというから、実際はかなりゆっくりとした旅路になる。

 3人だけなら2日くらいで隣の街まで行けるらしいが、安全を取って隊商にくっついていく方が僕のためだとユーリとルカが判断してくれたのだ。


 休憩のたびにルカの〈ヒール〉にお世話になりながら、僕たちは順調に街道を進んでいった。

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