看護の灯がともる頃

平岡夏子

未来へ


「和也先輩!もうみんな待ってますよ!早く!」


パーマがかった髪型の男は慌てたように扉から出てくる。スーツを着込みしっかりしている。

和也と呼ばれた男はネクタイをしめながら読んだ男の方へ近ずいていく。


「お、そうか…もう時間か」


そう言葉を残して扉をくぐると、そこには一面の花畑であった。

紫、黄色、赤色、紺と色とりどりの花たちが咲き誇っている。

動物園ばりの賑やかさを放つ会場からは人生で最後となる晴れ舞台に待つ俳優のようであった。


和也は事前に指定されているパイプ椅子へと向かい腰掛ける。

すると後ろから小さなもので突かれる感触があった為、振り向いた。


「おせーよ、何してんだよ。もう式始まるぞ。」


そう声をかける女性はこの3年間色々とお世話になった成美だった。

赤みがかった袴姿が印象的であり、普段とは違い綺麗になっている。


「うんこしてたんだ、3かな」


和也はありのままの事実の述べた。

和也はブリストルスケールでうんちの状態を成美に伝えた。ちなみに3はやや硬いうんちである。見た目は割れているソーセージである。

そう、和也は嘘をつかない男である。


「きったねーな、報告すんなよ」


成美は顔をしかめながら嫌そうにしている。顔をしかめても可愛いのは彼女が美しいからであろう。

そんな彼女を見てたが、司会進行役の職員がマイクをオンにして話しかけたため姿勢を整える。


『定刻となりました。これより平成31年度、第74回 日本伊徳医療看護専門学校 卒業式を挙行いたします』


整然とした声で自身の卒業式が始められる中、和也は目をつむり三年前の自分を思い返していた。

長いようで短くもあった。楽しくもあり、辛く、苦しく、泣き叫びそうな毎日を送っていた自分を思い出していた。



これは看護師が嫌いだった男の子が、看護を好きになる物語である。

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看護の灯がともる頃 平岡夏子 @natsuko1125

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