第10話 能力を知ろう#1
「っ!?」
ユトゥスはパチッと目が覚めた。感覚はまるで長い事夢を見ていた感じだ。
しかし、その夢が思い出せない。凄く曖昧で、フニャフニャしている。
とても印象的だった気がするのに......。
「俺は......生きてるのか?」
ユトゥスは体をペタペタと触れながら、起き上がる。
”夕暮れの花”を助けようとした時、ユトゥスはアイアンベアに無謀にも立ち向かった。
ユトゥスの剣はアイアンベアの毛に阻まれ、その魔物が振るった腕で彼の右足が吹き飛ばされる。
足を失った以上、ユトゥスに逃げる術はなかった。
そして、重たい前足に頭を押さえられ、喉を――抉られた。
それがユトゥスが真っ暗な視界の中で迎えた最期......のはずだった。
ユトゥスが体をチェックしていると、無くなったはずのものがあることに気付いた。
左腕がある。それに右足も。どちらも千切れたはずのもだ。
ユトゥスの服はボロボロだ。しかし、外傷らしい外傷はどこにもない。
アイアンベア相手に無傷?......そんなバカな。
ユトゥスは周囲を見渡す。
ユトゥスのいる場所はゴツゴツとした土で形成された袋小路になっている。
縦横二メートルほどの大きさで、恐らくアイアンベアの巣穴だろう。
巣穴の壁際に冒険者の装備や道具の一部が置かれていた。
長い間放置されていたのか劣化しており使えそうなものは少ない。
冒険者の骨はないようだ。
骨ごと食われてしまったのか、はたまた土に還ったのか。
どちらにせよアイアンベアの犠牲になったことは変わりない。
ユトゥスは一点の壁を見つめた。
そこにあるのは、壁から飛び出す少女の像。
見つめただけで恐怖を感じたユトゥスだったが、同時に悲しくも感じた。
「ん? なんだ?」
ユトゥスは目の端で光る何かを捕らえた。
目線を向ければ、冒険者カードが光を放ちながら落ちている。
ユトゥスの冒険者カードだ。
カードの近くにポーチがあり、ポーチの端が破れている。
運ばれてる最中にポーチから零れ落ちたのだろう。
「レベルアップ......?」
ユトゥスは首を傾げた。
冒険者カードが光るのはレベルアップやスキルを覚えた際に現れる現象だ。
しかし、ユトゥスはアイアンベアに負けており、経験値を得ていない。
つまり、カードが光ることはありえないのだ。
ユトゥスは寝そべって手を伸ばし、冒険者カードを拾い上げる。
冒険者カードに魔力を流し、「
瞬間、冒険者カードから空中に能力値が表示される。
―――
名前 ユトゥス(19) 性別 男 レベル1(固定)
職業 反逆者
筋力値 15
防御値 10
魔防値 10
魔法値 10
行動値 10
魔力値 15
器用値 15
魔法・技能スキル
<ユニークスキル:反逆シリーズ>
「逆様」:レベル1(KP:1)
「逆行」:レベル1(KP:3)
「逆転」:レベル1(KP:5)
<反逆シリーズスキルに必要なポイント>
カルマポイント(KP)▼:所持値 50(最大80:ただしロック解除で上限解放)
詳細 善業率:0 悪業率:0
<称号>
努力の鬼、不屈の精神、弱者の鏡、パーティの姫
反逆の使途、△※×◇(※読めない)の願いを叶える者、呪われし者
――――
「反逆者だと......?」
ユトゥスは見覚えのない職業に困惑する。
気になる項目は色々ある。しかし、まずは「反逆者」という職業だ。
今まで不明だった職業が明かされたことは嬉しい。
しかし、こんな職業は
もちろん、ユトゥスとて全ての職業を知ってるわけではない。
なので、一概に「反逆者」という職業がないことを断定できない。
とはいえ、こんなあからさまに反抗の意思が示された職業があっていいものなのか。
それに、一体何に対して反逆的な行動を取るというのか。
ユトゥスは職業に関しても色々思うことがあったが、ひとまず次に移った。
ユトゥスが次に気になったのは、レベルが「1」で固定されてること。
つまり、この先どんなに戦っても肉体は強くなれないということだ。
まるで神様が与えてくれた
「チッ、なんだこの能力値は! 『村人』にも力負けするレベルじゃないか!」
職業が「村人」の人であってもいつまでもレベル1なわけではない。
レベルの高い「村人」であれば低ランクの魔物は倒せるらしい。
しかし、ユトゥスはそうではない。レベルが固定されているから。
故に、これが意味するのはユトゥスは『村人』に殺されるということだ。
それも最底辺職の『村人』相手に殴り合いで負ける。
その時、ん? なんか今それとは別に自分に違和感があったような? とユトゥスは自分の発言が気になった。
わからないことはスルーして、ユトゥスはスキル欄を見る。
職業を得たことで発現するスキルはいくつかある。
中でもユニークスキルはその職業限定で使える技だ。
そして、限定スキルであるからこそ、その威力は強力であり、魔物や人との戦いで切り札になる。
しかしどうにも、ユトゥスが知ってるサクヤ達との技と違っている点があった。
「詳しく見てみるか」
ユトゥスはカルマポイント(以下KP)の横にある「▼」を押して詳細を見た。
その内容を要約するとこうだ。
職業「反逆者」のユニークスキルを使うにはKPと魔力の二つが必要になる。
まず、KPは技を発動させるために必要なポイントだ。
それがなければ魔力があっても発動できない。
また、発動させた後は魔力を消費しての行使となる。
魔力は自然回復やポーション類で回復可能だが、KPはそうではない。
KPを溜めるには善業か悪業を行う必要がある――つまり、良い行いと悪い行いだ。
それを溜めるにはどちらかの行動をすればいいらしいが......
「善業判定を受けた言動で獲得できるポイントは『1~5』ポイント。
対して、悪業判定で獲得できるポイントは『5~20』ポイント.....だと?
まるで力を使いたければ悪いことをしまくれと言わんばかりだな」
世間一般の良いと思われることに反した行動をしろとその説明欄は言っている。
この感じだと『反逆者』というよりただの不良だ、とユトゥスは思った。
スキルの名前も反抗的だ。その全てに「逆」が入っている。
そして、それぞれの能力の詳細は――
『逆様』:レベル1 小さな物を任意の方向に入れ替える。
『逆行』:レベル1 飛んできた小さな物の軌道に逆らって行動する。使用連続時間は魔力使用量に依存する。
『逆転』:レベル1 相手の能力値の一部を自分の能力値と入れ替える。使用連続時間は魔力使用量に依存する。
ユトゥスは少しだけ眩暈がした。
ものの見事に相手の力を利用して戦うようだ。
これも通常の戦い方に逆らっているということなのか。
もっとも、レベル1の状態ではそこら辺の野良犬にも負けるだろう。
いや、野良犬以前に「村人」に負ける。
ユトゥスは悪い考えを首を振って払拭すると、思考を切り替えた。
そこで注目したのは三つ目のスキルである<逆転>だ。
このスキルを一言で言えば、相手の筋力値を自分の筋力値と入れ替えれば、不足している攻撃力を補えるというものだ。
言葉の限りでは、<逆転>というスキルは破格の性能に感じる。
しかし、ここで一旦立ち止まるのがユトゥスだ。
期待に高鳴る鼓動を抑え、冷静にその技について考える。
「この技は確かに異常だ。だが、本当にそれだけなのか?」
この技には何か落とし穴があるように思える、とユトゥスは顎に手を当てた。
与えられた力をただ行使するだけじゃ子供と同じ。
本当に強くなりたいなら、その裏にあるリスクも考えなければいけない。
「とはいえ、今までに見たことも聞いたこともないスキルだ。
こればっかりは使ってみないとわからんな」
なーんかさっきから声に妙に覇気があるな。こんな雄々しかったっけ? とユトゥスは先程から違和感をヒシヒシと感じる。
しかし、気のせいかもしれない。今は情報収集が優先だ。
最後に称号欄だ。これらは見ても特に役立つものでもなさそうだ。
ただ、この「呪われし者」というのはなんとも不気味な称号だ
呪われているとすれば、何らかの形で
「......」
ユトゥスは辺りにある冒険者の荷物を漁り始めた。
かつて迷宮に挑んで敗れ去った冒険者の遺品。
本来、こういうのは回収して冒険者ギルドに渡すのが正解だ。
しかし、今のユトゥスはどこが出口かもわからない迷宮で遭難中の身。
故に、使える物は使わせていただこう。
『悪業ポイント、5ポイント入手しました。現在のKP55』
ユトゥスの漁る手がピタッと止まる。
脳内に突然音声が流れてきたからだ。
ユトゥスが周囲を確認するが近くに人がいる気配はない。
音声から判断すると今のでKPが手に入ったらしい。しかも、悪業ポイントと言ってた。
もしかすると、“死者の荷物漁り”が悪い行動として判定されたのもしれない。
「ここにあったか、手鏡」
女性冒険者のものであろう荷物の中に入っていた割れた手鏡。
鏡の破片が半分以上無くなってしまっている。
しかし、バラバラになったものは荷物の中に入っているようだ。
「......ここで手を合わせたらどうなるか、試してみるか」
ユトゥスはふいに思い立ち、手鏡を目の前に置いて手を合わせる。
その手鏡の所持者である女性冒険者にそれを拝借することを伝え祈る。
『善業ポイント、2ポイント入手しました。現在のKP57』
「やはりか」
ユトゥスは善業と悪業のシステムを理解した。
どうやらこのKPを手に入れる手段は行動に左右されるようだ。
つまりは人間的マナーが正しいかどうかということ。
その基準はユトゥスにも何かわからない。
恐らく、この力を与えた存在の基準かもしれない。
ユトゥスはそんなことを考えながら、荷物から鏡の破片を取り出し、パズルのように手鏡にはめていく。
そして、ある程度はまると、それを使って映し出された自分を見た。
「......っ!?」
銀髪と深紅の瞳......どちらも呪われている人間に現れるものと言われている。
銀髪は剣王国によってそうされているとしかユトゥスも知らない。
しかし、深紅の瞳はかつて魔王がしていた瞳がそうだったと風の噂で聞いた。
薄い赤色の瞳はもともと人間にあった目だからセーフだとしても、深紅の瞳は魔族側にしか発現しない瞳の色だから邪教徒として扱われてしまうらしい。
これは人間でありながら魔族の瞳を持つということで、人間の存在に逆らっている......という意味なのか。
「ふざけやがって(訳:なんてことだ)」
ユトゥスは自分の発言に首を傾げた。
ん? やっぱり、なんか口調おかしくね? とユトゥスの今の今までスルーしていた疑問が沸き上がる。
今、「なんてことだ」って言ったはずなのに、口からは随分荒々しい言葉が出たような。
「.......」
ユトゥスはふと冒険者カードを使って能力値を開く。
称号にある「呪われし者」に触れると「▼」の詳細表示が出た。
それを押すと、そこにはこう書かれていた。
『銀髪と不遜な口調をプレゼントするよ。
これで世界に恐怖の存在として有名になってね。
ほら、言葉遣い悪いって嫌われる原因になりやすいし。
それじゃ、ユーちゃんの反逆物語に期待してるよ♪』
「......クソッたれがああああぁぁぁ!(訳:なんじゃそりゃああああぁぁぁぁ!)」
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