第2話 変態姫のご出立

俺は"自称"変態である。


前世では変態紳士としての活動で少しばかり有名だった俺は変態を育成することに掛けては右に出るものはいないと自負している。


なので、この世界でも"布教"したいと思っていたのだ。


しかし、この世界、全てが受け入れられてしまう。。


ロリコンも巨乳好きも熟女好きもSだろうがMだろうが何もかもが受け入れられる。


もっとも正確にはそんな概念が存在しないと言うのが正しいのだが。

つまり、誰もそのような異常性癖は持っていないし、普通の結婚、普通の家庭を望んでいるということだ。

それはこの世界の当たり前なのだ。


だから、俺のような変態性癖を持つ人間はキモチワルイを通り越して、なんだそれ?という感想に至るわけだ。


そのような人間に対する偏見もこの世界ではなかった。


人は本当にわからないものに出会ったとき、拒絶ではなく疑問を抱くというがまさにそれである。


しかし、一般的とされる性癖(俺は全てを平等に扱いたいので性に関することなら全て性癖に入れてしまう)、例えば一夫一妻だったり、巨乳はあまり好まれないなど酷くキリスト教的な価値観の強い中で、例外もいる。


それがこの世界の『変態』という概念であった。

ヤバいヤツ、おかしいやつ程度の意味合いである。


この世界の『変態』はその性癖だけでなく、性格や能力も人並み外れている。


史書を読むと、家系的な遺伝であったり、いわゆる"転生者"の人間に多いとされている。

しかし、稀に『覚醒』するものもいるらしい。


"変態"に"覚醒"とは字面からして酷いが、俺は幾人かにこれをやらかしてしまった。


とにかく、英雄色を好むを地でゆく世界であるから変態はある種のステータスでもあるし、常人には理解できないものとして認知されている。

だから、俺も変態を自ら名乗っているし、時折自分の"変態性"を誇示するときもある。


そもそも拾ってくれた親が圧倒的な変態なのだから、隠すのも"同志"として逆に恥ずかしいと感じたのだ。


故に俺はこの世界では「変態」という称号を背負って生きている。


まあ、俺の変態はどうもこの世界では突き抜けているようで、「ハグレモノ」なんて渾名が付いたりもしているのだが。



※歴史の語り部A



ビュフェスが結婚を承諾した後、バートルモの王宮内は騒然としていた。


一国の姫を送り出すのだ。

ましてビュフェスは何百年もの間、バートルモ王国全体の面倒をみてきた「国母」のような存在だ。

生半可な用意では送り出せない。


だが、ここに父王バーサイトの思惑もあり、外交使節の長にビュフェスを任命し、一足先にフットウント王国へ送り出すことにした。

戦争を嫌うビュフェスを除くためにバートルモ一族の若い武闘派の連中がバーサイトに直接提案したらしい。


数多くの外交交渉を成功させてきたビュフェスからすれば、どこの国が婚姻同盟の交渉を政略結婚させられるやつに任せるのか、と少し馬鹿らしくなってくるが、これも仕方ないことか、と思い直した。


(思い返してみれば私以外碌に外交交渉なんてしたことないわ。私以外にできるやつが居るわけなかった。)


かくして、ビュフェスは、いずれにしても行かなきゃいけないものが早まっただけだとポジティブに考えることにした。

バートルモの外交音痴を嘆いていてもただ気分が沈むだけというのもあるが。


(私が居なくなったら、本当に戦争しかしない国になりそう、、、はぁ。)




ビュフェス視点


私がフットウントに嫁ぐと宣言してから半月が経ち、使節団の準備ができて出発ができそうだというので父上に呼ばれた。


この間、私は虎の子の近衛兵団を連れてきたいと父上にお願いしていた。

父上からすれば使い道のわからない得体のしれない部隊だったからなのか、あっさり許可が下りた。

これに関しては他の一族から兵を集めるという部隊のコンセプトがバートルモ一族の反感を買っていたこともあったかもしれない。

父上が戦さをするときは臣従している一族ごとに部隊を編成して用いているから近衛兵団は新しい試みだったのだ。


、、、私はいいと思うんだけどな、直轄軍。


それはともかく、使節の準備は相当急ピッチで準備していたみたいだった。


、、、本当にあの戦闘狂は戦争のことしか頭にないのか。


「父上、入ってもよろしいでしょうか?」


「うむ。」


私はこれで会うのも最後だと言わんばかりに無愛想に突っ立った。

実際にはなんだかんだ会うことになるのだが。


「今日呼んだのは他でもない。お前の結婚のための交渉使節団の用意ができたからだ。交渉の条件を詳しく詰めなければなるまい。だが、それとはまた別の話がある。」


と父上は合図をして、一着の壮麗な防具一式と二振りの剣を持ってこさせた。


「餞別だ。儂からの。どちらも儂の討伐してきた古龍を元にして職人に作らせた傑作だ。」


近づいて見てみれば、白い光沢の輝く龍の鱗を縫い付けたスケイルアーマー。

龍皮から作られたと思しき革製の防具類には紅と金の糸で豪華な刺繍をしてある。

さらには龍の爪から削り出された片手剣が二振り。

父上に許しをもらい刀身を見れば、琥珀のような透明感のある黒い剣だった。

黒曜石のごとき鋭利な刃は、触れただけでも万物を寸断しそうなほどである。


「本当ならばもっと後に渡そうと思っていたのだが、急遽完成させたのだ。高度な魔導防護も施しているから銃弾をも弾く。持ってゆけ。」


「お気遣い感謝します、父上。」


「良いのだ。お前がこの国のためにしてきたことを考えればこの程度些細なことだろう。お前がフットウントに嫁ぐと聞いた多くの氏族から贈り物が届いておる。正直纏めるのが大変だ。」


聞けば家畜、ゲル、家具はいいとして、国家予算1年分の金貨やらギネス記録ものの宝石やらウェディングドレス用にと高級な絹毛皮染料やらが贈られてきて、果てには我が家には特産品も家宝もないからと家人の半分を差し出してきたらしい。

流石に断ったそうだが。


国のために身を粉にして苦労した甲斐があった、と私は思う。


「まだまだ全部は来ていないのにこれだ。南方のオアシス諸都市が知ればさらにとんでもないものを贈ってきそうだしな。」


贈り物は全てお前の嫁入り道具として結婚披露の日までにフットウントへ送ろう、と父上は言った。


その後、フットウントとの婚姻同盟の内容について意見をすり合わせた。

そして。


「それでは行って参ります。」


「行って来い。後はバートルモなど気にせず、お前の夢と幸せを掴んでくれ。儂の心からの願いだ、ビュフェス。帰って来たければ、、、一緒に戦うならそれも許そう。」


誰がそんなことを、と思いながらもそれをおくびにも出さぬように言った。


「父上、私は感謝しております。」


「儂もだ。愛しているぞ。」


珍しく感極まっている父上を前にサラッと別れを告げ、その場を去った。



どうせあの男の事である。

やっと娘が邪魔してくることもなくなったぞ、じゃあ戦争じゃ、位のことだ。

私は騙されない。





ビュフェスの去った王の間ではビュフェスの予想通りの事が起こっていた。


「戦争計画、作戦立案、総力戦、電撃的侵略、突破殲滅、突破殲滅!」


早速地図を広げたバーサイトが戦争準備を始めていた。


「久しぶりの戦争じゃ、心踊ることこの上ないな!」


娘を愛しているのは本当だったが、それ以上にこのバーサイトは、、、戦狂いであった。

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