第18話 共闘
自宅に戻った私は、素早く町娘の変装を身に纏って、すぐに殿下から通信で送られてきた場所に転移する。
〈客間〉から直接転移すると、魔法の痕跡が残ってしまうリスクがあるのだ。
その点、自宅の周りには高濃度の魔力で結界を維持しているから、魔法の痕跡を辿るのはほぼ不可能で、自宅から転移するほうが安全なのだ。
殿下から指定された場所は、よく訪れる場所ではなかったので、慎重に詠唱して魔方陣を描くことにした。
「【転移】」
転移すると、ちょうどルイ様も転移したところらしかった。
魔力はルイ様だけど、黒い甲冑は身につけておらず、冒険者のような見た目をしていて、全く別人のように見える。
先程会ったときの変装もかなりのものだったけど、この変装を見破れる者は片手で数えられるほどしかいないだろう。
すごい……! ルイ様、さっき渡した魔方陣、もう解読して使いこなしてる……!
「ソフィア」
私がルイ様の実力に感動していると、殿下がタタタッと駆け寄ってきてくれる。
殿下はルイ様が黒い甲冑ではなく、変装魔法を身にまとって登場したことに、目を見開いたが、すぐに、
「その手があったか……。さすがソフィアだ」
と言って納得したようだった。
「私は何をすれば?」
簡潔に任務の無いようを尋ねれば、殿下は頷いて、説明を始めた。
「
「わかりました」
実地調査といったところか。
ウルフ自体はそんなに強いモンスターではない。
魔物の活性化を直にこの目で確かめるには良い機会だということだろう。
「ルーは、ソフィアの護衛──」
「必要ありません」
食い気味に拒否すれば、殿下は苦笑した。
「違うよ、聞いて。護衛という名目で、ソフィアのサポートだ。ふたりで探ってほしい。臨機応変にね」
「御意」
「わかりました」
町娘とその護衛の冒険者という体でいくらしい。
ルイ様が近くにいてくれるなんて、頼もしい限りだ。
安心感を覚えながら、どのようにウルフを調べるか考えていると、殿下が私たちに顔を寄せて、小さな声で言った。
「それから、ここではソフィアのことはリア、ルイのことはスイと呼んでね」
私たちは黙って頷いた。
お互い素性を隠しているので、偽名を使うのだ。
「ああ、分かっているとは思うけど、今までの会話は盗聴防止で妨害魔法をかけているから、安心してね」
私たちから身を離した殿下は、得意げに微笑む。
用心深い殿下のことだ。それくらいはしているだろう。
「殿下は何を?」
「僕もウルフを探りつつ、色々な方向から調べてみるよ」
おそらくここにいる誰よりも実力のある殿下だからこそ、気づけることもあるだろう。
無茶はしないでほしいけど、やはり心強い。
「お願いします。お気をつけて」
「うん、ソフィアも。ルーもね」
殿下は嬉しそうに、にっこりと笑った。
「そろそろ妨害魔法を切るよ。ふたりとも、よろしくね。くれぐれも無茶はしないで」
真面目な顔になった殿下に、頷いて了解の意思を示せば、彼も軽く頷き返してくれて、森の奥へ駆け出していった。
殿下の姿があっという間に見えなくなって、私は隣にいるルイ様に声をかけた。
「行きましょう、スイさん」
「……ああ、リア」
基本私は町娘、つまり庶民の振りをするので敬語だけれど、ルイ様は騎士だし冒険者の護衛役なので、戦場では敬語は使わない。
迅速な伝達のためとか、リーダーを分からなくさせるためとか、色々な説があるけれど、騎士や冒険者の慣習らしい。
ルイ様が敬語を使わずに話すのを聞くのは、あの黒い甲冑を着ていらしたとき以来かしら、と、少し懐かしく思う。
私たちは殿下が入っていったのとは真逆の方向に進んでいく。
【魔力探知】をオートモードにして、常にウルフの位置が分かるようにしておく。
「……多いですね」
「ああ、こんなに多いことはあまりないな」
ルイ様も魔力探知を使っているみたいだ。
本当に、この方には使えない魔法なんてあるのかしら……?
森を数百メートル走ったところで、だんだんとウルフの群れが肉眼でも認識できるようになってくる。
まずは、試しに魔法を放ってみるか……。
あえて魔力量を少なく調整し、普通のウルフを倒すのに必要なだけの魔力を込め、放つ。
ウルフに氷の矢が突き刺さり、倒れるかと思いきや、そのまま突進してくる。
「リア!」
ルイ様が剣で切り伏せ、ウルフは地面に倒れた。
「……ありがとうございます」
別に仕留められたけど、今は護衛という名目だし、ありがたいと思っておくべきだろう。
守られるのは好きじゃないけど、その、助けてくれたスイさん――もといルイ様は、とてもかっこよかった。
「リア、油断するな」
「はい!」
次々と向かってくるウルフたちのうち、何体かに向けて、少しずつ魔力量を調整しながら魔法を放っていく。
残りはスイさんにやってもらおう。スイさんも自分でウルフを探りたいだろうしね。
スイさんは目で追うのが難しいほど素早い剣さばきで、次々とウルフをなぎ倒していく。
ちょ、ちょっとウルフがかわいそうなくらい、圧倒的な実力だわ……。
その後も、私たちはそれぞれウルフたちを攻撃しながら分析していって、この辺り一帯にいたウルフたちをあっという間に討伐した。
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