勇者の継承

瓊紗

勇者の継承


その日、俺は15歳になった。そしてそんな俺に、父さんは真剣な面持ちで向かい合う。


「父さんは、ずっとお前を勇者にしたかったんだ」

父さんは勇者である。しかし、父さんは勇者であるがゆえに、俺は勇者にはできないだろう。


「だが、父さんの両親のみならず、母さんや母さんの両親、兄弟、従兄弟、再従姉妹、従兄弟伯父伯母再従姉妹叔父叔母、親戚遠戚一同に反対されてしまった」

それはまぁ……ほんとに一同だな。どんだけ揃ったんだ。しかし俺は安心している。そのお陰で俺は勇者にならずに済んだのだから。しかしながら……。


「父さんが勇者なら、俺はそもそも勇者にはなれないだろ」

「違うんだ、陽向ひなた

父さんが俺の名を呼ぶ。俺の名は母さんがつけてくれた名だと聞いた。


「父さんは元々剣士だったんだ」

「……は?」


「けれど、どうしても息子を勇者にしたい……勇者は父さんの夢だった。父さんは剣士じゃなくて、ずっとずっと勇者に憧れていたんだ」

「……はぁ」

つまりこの親父は自分が勇者になりたかったから、俺も勇者にしたかったと。

親の夢を押し付けられた子どもとしてはいい迷惑だ。まぁ、俺の場合は押し付けられることはなかったが。


「でも父さんは勇者になれたんじゃん」

父さん望み通り。


「違うんだ……!父さんは息子を勇者にしたかった!どうしても息子を勇者にしたいと懇願した!だが……そうしたら……みなから大反対された」

当たり前だろ。息子を勇者にするだなんて、何つー親だ。ファンタジーの読みすぎだ。


「そしてそんなに息子を勇者にしたければ、まずは父さんが勇者になれと脅されて……」

今、この父親は脅されたと言わなかったか。


「……正式に勇者になったんだ。その日から、父さんは……勇者になった」

自業自得と言うか、何と言うか。しかしながらそれは当然の報いと言えよう。


「だが、もしお前が15歳になって、勇者を継承できるような年齢になれば……お前が望むのならば、勇者を継承させてもよいと、母さんや、親戚一同から、許可を得た……!」

それで俺は今日ここに呼ばれたわけか……。


「息子よ……!父さんは息子に勇者を継承させたら、今一度、ただの剣士に戻る……!そうしたら……お前が勇者になる!どうだ、嬉しいだろう!?お前も、勇者になりたいだろう……!」


「……父さん……」

父さんが勇者であること。子どもの頃から周りに知られたら最後、からかわれ続けていた。何故、俺の父さんは勇者なんだ。何で勇者なんだ。ずっとずっと不満だった。恥ずかしかった。だが……その真実がやっと今日、分かった。


「父さん……俺……っ」

「……息子よ!勇者を、継いでくれるか!?」


「継ぐわけねぇだろっ!このクソ親父いいぃっ!もしてめぇに勇者になんてさせられてたら、今頃笑われからかわれ人生全部これからも台無し!羞恥心で外も歩けねぇ!病院も行けねぇっ!呼ばれるだけで大恥なんだよクソがぁぁぁっ!!!」


「……は……?そんな……なんで……っ!勇者だぞ!?お前も勇者になれるんだぞ!嬉しくないのか!」

「嬉しいわけねぇだろ!!おめぇは責任とって、一生勇者のまま生きろ!!」


「そ……そんなぁ……っ」

父さんが崩れ落ちる。



――――前略、裁判官さま。


息子に『勇者』などと言うキラキラネームと言うか、ファンタジーネームを付けようとした挙げ句、まずは自ら改名させられたバカ親父の改名は、絶対に認めないでいただきたい。



むしろ、子どもにキラキラネームだの、ファンタジーネームだの付けたがる親は、まずは親自身がその名に改名する……と言った試みはとてもよいものだと思います。

キラキラネームの次にファンタジーネームが流行る前に、家親戚遠戚一同が考案した、まずは親がファンタジーネームになると言う試みは、是非是非検討していただきたいです。


ファンタジーネームを付けられそうになった子より。


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勇者の継承 瓊紗 @nisha_nyan_

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