第3話

 出迎えである私たち神門神社組はあぶら田渕で昼食を取った後、比木神社組と合流予定の伊佐賀神社を訪れた。ここには福智王の弟である華智王が祀られている。


「おおー、マジか」


 比木神社組がやってくる様子を眺めていると祭具を携えた神職の後ろに豪華絢爛な衣装を身に纏った勇士の姿があった。試しにゴーグルをとってみると姿が消える。どうやら彼が橋田さんの言っていたお楽しみのようだ。再びゴーグルをかけると彼と目が合う。彼は私に微笑みかける。整った容顔に惚れ惚れとしてしまい、思わず会釈した。相手はバーチャルだというのに、私は何をやっているのだろう。


「すごいねー」


 感想を口にする暦にただただ頷くしかなかった。私の目はすっかり釘付けになっていた。

彼は前にいる人魂に向かい合う形になる。晴々とした笑みには、うっすらと涙が浮かんでいた。そこで私は全てを察した。


 彼は比木神社に祀られた福智王に違いない。そして、私たちが連れてきた人魂は神門神社に祀られた禎嘉王であろう。


 師走祭りは離れ離れになった福智王と禎嘉王が年に一度再会するために設けられた祭りだ。その祭りの醍醐味が今叶えられたのだ。


 普段なら、何も思わず祭典を見ていた。しかし、涙を流す福智王に感化されてか何だか心にジーンと来るものがある。鼻を啜る音が聞こえる。私と同様、この出会いに感動を覚えたものがいるようだ。


 伊佐賀神社での祭典と神楽が終わり、次の目的地である塚の原古墳に向かう。


 禎嘉王と福智王を先頭に神門神社組、比木神社組が続く。


「福智王ってとても格好いいんだねー」


 隣を歩く暦が先頭を歩く二人を見ながらそんなことを言う。


「そうだね。銅像よりも断然こっちの方がいい。色合いの問題だったりするのかな?」


「彩乃ちゃん、福智王に見惚れてたよね。もしかして恋した?」


「ははは……そんなまさか……でも、何で禎嘉王は人魂なんだろう」


 図星を突かれたため、悟られないように話題を変える。恋したかどうかは分からないが、彼に微笑みかけられてからドキドキが止まらないのは確かだ。


「どうしてだろうね。制作場の都合かな?」


 暦はうまく話題に乗ってくれた。

ボケなのか本気なのか分からない彼女の回答に「そんな生々しい話はないでしょ」と呆れながら反応する。色々な考察に花を咲かせる私たちだったが、少しして疑問は晴れることとなった。


 目的地である塚の原古墳に着いたと同時に禎嘉王の人魂は人型へと変貌した。福智王と同じ豪華絢爛な衣装が現れる。彼の容顔は小難しい顔をした皺の多い渋男だった。


 塚の原古墳には禎嘉王の墓がある。どうやら神社に祀られていた王の人魂は当人の墓に近づくことでその姿を曝け出すようになっているようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る