第2話
RVC、通称『Real Virtual Contact』は現実世界と仮想世界をつなぐ活動を行っている企業だ。橋田さんが行っているTCP、通称『Traditional Culturelization Project』は伝統芸能や古代建築物といった日本の文化に焦点を当てたプロジェクトみたいだ。
「うー、さむー」
師走祭り当日。以前は私服姿で臨んでいたが、今回は神楽を舞うため袴姿で臨まなければならなかった。冬の寒さが服の隙間から縫って入り、肌に染みる。雲の合間から流れる日差しの暖かさが唯一の救いだ。
空を見上げるといつもよりクリアに見える。乾燥した空気の影響ではなく、つけているゴーグルのレンズを象った眼鏡の影響だ。メガネのアームの部分には骨伝導式のイヤホンが取り付けられていた。お父さんに言われ、私を含めた神職みんなが同じ眼鏡をつけている。
一体何の役割があるのだろうか。そんな疑問を抱きながら比木神社組を迎え入れる準備に視線を注いだ。すると、祭具であるフクロガミの上に見慣れない物を発見した。
緑色の小さな炎。ネットでよく見る人魂だ。
「こ、暦……あれ……」
隣にいた暦の肩を強く叩く。恐怖のあまり人魂に目が釘付けになり、彼女に顔を向けることができなかった。暦は「痛いよー」と言いながら呑気に私が指差す方を見る。
「わあー、すごいリアルだねー」
「リアルっていうか、本物だよね?」
「いや、あれはバーチャルだよ」
私の問いかけに答えてくれたのは暦ではなかった。隣に顔を向けると昨夜自宅で見かけた顔があった。橋田さんだ。
「昨日ぶりだね。そっちのお嬢さんははじめまして。橋田と申します」
「はじめまして。甲斐暦です」
「彩乃ちゃん、試しにゴーグルを外して見てごらん」
橋田さんに言われた通り、人魂のある位置を見ながら眼鏡を外してみる。イヤホンが引っかかって外すのに手間取った。
裸眼で見てみると、先ほどまで鮮明に写っていた人魂がたちまち消えた。
「すごい。もしかして、これ『霊視眼鏡』ですか?」
「はっはっは。確かに見方によってはそう取れなくもないね。でも違うよ。これは『MRゴーグル』って言って、仮想世界で作られたものを現実世界で見ることができるのさ。あっちを見てみて」
そう言って橋田さんは祭りの参加者に指を向ける。彼らは各々スマホを掲げて私たちと同じところを見ていた。
「ゴーグルをかけていなくても、スマホのアプリで見ることも可能なんだ。経費事情でMRゴーグルは神職用しか用意できなかったからね。比木神社組にも同じものが配られているはずだよ。ただ、彼らが見ているのは人魂ではないけどね」
「何を見ているんですか?」
「それは秘密。会ってからのお楽しみだよ。じゃあ、私はこれで」
橋田さんは小さく手を振った後、祭具の準備をするお父さんの元へと歩いていった。
向こうでは一体何が現れているのだろうか。楽しみに思いながら私は祭りに臨んだ。
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