白く揺れる山桜の姫 そのお心
ああ儚い。春の代名詞のひとつ。桜。この方々も多くの姿をお持ちの姫君であるが、この中では山桜の姫君のうちのおひとりをご紹介する。
山桜はピンク色、というより白い桜だ。古くは平安の頃に遡る。公家の邸宅に植えられていたのも山桜である。それ故か、和歌のなかでの桜は白い。
桜といえば、有名な和歌として在原業平の歌があげられる。
「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」
もし世の中に桜がなければ、春は穏やかに過ごすことができるのに。
桜は儚く散っていく。寝ている雨風に晒されて散れば、はらはらとこちらの心なんて知らずに桜吹雪を吹き放つ。その姿儚さを想わせる桜に胸が締め付けられ、恨めしさまでも感じさせる。
しかし、彼女はしたたかであった。夜桜を演出させるスポットライトに照らされながら、その未知なる顔を覗かせる姿はまさに、口元を袖で隠しながら、流し目でこちらを見遣る艶やかな姫そのもの。
加えて、白い気品に満ちて、散ってしまっても人の心にその身を刻ませ根をはっていく。だからこそ、業平は恨めしさをも持ったのである。人はその姿を忘れられず散る桜に嗚咽し春の終わりに胸を締め付けられる。桜は散るからこそ美しい。儚い。
しかし、その姫はぐさぐさと人の心を奪い取って離さない。心に根差した桜の根を抜くには大きな苦痛を伴うのである。人は桜から逃げられない。夏になっても後々とした夏の襲を着けて、晴れの場に出るのも姫君の楽しみであった。人が夏なれば衣替えをするように、桜も夏物の単にお色直しをしているだけである。
春といえば桜?なにをおっしゃる。わたくしは夏でもわたくしよ。控えているように見えるかもしれませぬが、しかしそれは間違いでございます。あまり舐めてかかられては、とても悲しいですわ。(悲しくない)
したたかである。儚くともしたたか。気品を纏い青葉を纏い今日も桜は人々をくらくらとさせる。恐ろしいお方だ。
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