五人目 芯の通った夏の姫 百日紅の姫君
今回は、柳と肩を並べるうつくしき姫君をご紹介しよう。百日紅のお方である。滑らかですへすべとした肌を持ち、赤い鮮烈な色から格式高い白い花を咲かせることもある。
そして散った後はその大きな特徴である肌の根元を染めていくように、絨毯のように落ちてゆくのである。
夏には神社仏閣に植えられて咲く彼女を、優しげな夏物の着物をお召になったもみじの方と共に見た者もいるのではないだろうか。
また、街路樹として、路面を両脇から彩ることもあるようで、時には紫、赤、白と様々な姿をなさっている。まるでグラデーションのように華やかに青葉の中で咲き誇る彼女にはつい見惚れて感嘆の溜息を零さずにはいられない。
今日もどの色の単に袿を重ね小袿はどのものを、と選ばれていらっしゃるのだろう。例えば、純白の単に、葉を思わせる浅葱を濃いものから薄く五枚ほど重ね、裏は薄紅。そして紅の小袿を羽織っていらっしゃるかもしれない。いや、夏という晴れの場。襲を変えて蘇芳の袴に紅と白を混ぜたような細長を着けて風に揺らめいておられる姿も想像される。
わたしの華やかさは夏に映える。晴れの場でございます。もう言葉はいらないでしょう。ただ、わたしそのものと、選んだ襲を思うままにご覧になって。肌も併せてのこの姿、もし、わたしに向かって美しいというのなら、わたしを咲かせた四季に感謝なさったらいかがかしら。
そう仰られても、溜息を零さずにいられない。「きれい」と口から出てしまう。自信をもって今日もその美しさを得意げに咲かせる姫その姿により、魅了されてしまう。しかし姫は特段、人間のために咲いている訳では無い。その姿がまた、うつくしいのである。姫君を拝見することこそ、夏の喜ばしいことのひとつとしか言えない。ああ、うつくしいお方。その芯の通ったお姿こそ、あなた様でいらっしゃる。
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