二人目 未知なる夏の姫 柳のお方

夏といえば、みずみずしい青葉。その中でも風に吹かれてさらりといなし、しだれている木といえば、柳である。不思議な柳の姫のおひとりを取材してみた。


そう、柳はしだれているのである。それは人間の工芸品で例えると、硝子飾り。ほのかな風に身を委ね、しゃらしゃら一時の空気を冷ますあれである。


時には人間を囲うように垂れ下がり、時には人間に触れる許可を与えるように優しくあり、そして足元が霞むものを演出するかのようなうっそりとする鬱々としたうつくしさをも持つ。


優しさと受け入れる寛容さを併せ持ちながら、魅惑の微笑みを向けて人間を恐ろしさに突き落とす。しなやかさでいえばトップクラスといえよう。

また、日差しを受ける柳の姫君は穏やかだが、夜の柳はどうだろうか。月光を浴びてしなだれる。仄暗い光に包まれながら、柔らかな闇を作り出す。 もし、もし、権力争いなんて水面下の戦いがあるならば、その寛容さの下に相手を探っては自らの手を汚さず、何も無かったかのように微笑むことができる老獪な姿さえも思い浮かぶ。それは何故か。風に吹かれているというより風をいなしているかのように見えるからだろうか。


わたしくしは、特にいうことはございませぬ。ただそこにある。姫というのはあなたさまの想像でございましょう?もしかしたら、姫君ではないもっとおそろしいものかもしれないし、うつくしい姫君かもしれない。

さあ、どちらでしょうね、どちらでもないかもしれませぬね。まあ、あなたにはわからぬことでございましてよ。


謎と優しさと怖さ。おどろおどろしいかと思えばやわらかい。未知なるものはおそろしい。未知なる姫君、それが柳の姫であろう。

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