一人目 向日葵の姫君 天真爛漫と陰

 夏に満開の笑顔を見せるひまわり。もちろん、小さい花を咲かせる小夏や、ワインレッドに染るプロカットレイトなど多くの姫君がいるのだが、今回は一般的に想像される、大輪の向日葵畑をイメージしていただきたい。これはそんな向日葵の姫君たちの中で少し特殊な姫君をご紹介する。


 人間が「向日葵」と名付けたようにその姿は太陽に向かってその楽しげなかわいらしさを見せて咲く。そんな日差しに照らされた、目をみはる黄色。黄金色のアーモンド型の種、細い花弁がうつくしく楕円を描くその姿に見惚れる者は数知れず。ある者はその日を受ける向日葵に癒され、ある者はその濃さを増す影に自らを投影して自己嫌悪に陥った。またそんな中で一輪、こちらを向いてくれたならもはや心を奪われる。

 かわいらしく咲く彼女だが、このように人を知らず知らずのうちに弄ぶ節があった。天真爛漫、怖い方である。しかし、自らは人の恋心を弄んでおいて、本人はそれを関係なしにあるお方に執心していた。

 太陽そのひとである。向日葵は太陽に向かって咲き誇る。人間なんて放っておいて。しかしその太陽には他に役割があったのである。

月であった。月を照らしその魅惑を引き出していた。


 向日葵は睨んでいた。楽しげに見つめるのではなく、太陽を睨んでいるのである。こんなに想っているわたくしを放っておいて、お月さまにその日差しを当てるなんてなんてこと。わたくしはゆるしておりませんわ。わたくしは常にあなたを見ておりまする。忘れなさるな。

 嫉妬である。嫉妬に燃えた姫君は、常に太陽に恋焦がれその身を焦がし怨み、月を羨みその黄色を輝かせるのである。人間なんて眼中の外。そんな向日葵の姫君だっているのだ。


 今日も鮮やかな山吹色の小袿をひらめかせ見上げている。裏の萌黄がうつくしい。襲ねられた袿は深碧から穏やかな黄緑色へとグラデーションを描いていた。単は純白でその純粋なる思いを表しているようだが、その裏は紅。袴は蘇芳。姫の秘めた嫉妬心と燃え盛る情熱がそのように染めたのである。


 たまに黒髪をたなびかせこちらを向いた時の笑顔がかわいらしい。うつくしい。愛おしい。しかし本来の魅惑の微笑みは太陽だけに向けられていたのだ。蠱惑的な向日葵の姫君は、今日も爛々と日差しを受けて煌めいている。

 知らないうちに人を振り回す天真爛漫で、かわいらしく睨んで監視を外さない姫君。

いとおしいどろどろな姫君である。


ひと?...人? 何のことかしら?わたくしはあの方を見ているだけですのに...勝手に振り回されるなんて、かわいらしい方々ですのね。

でも、そんな向日葵に人は恋してしまう。罪な姫君であった。

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