第60話 上級ポーション


 ダンジョンへ挑んだ目的は、上級ポーションを手に入れることと、リリのレベル上げ。

 ついでにドロップする魔獣肉を確保することも楽しみにはしていたのだが──


「ふ、ナイトよ。見るがいい、オークの群れがいるぞ」

『へぇ、このボクたちに喧嘩を売ってくるみたいだよ? 生意気な二足歩行だね』

「まぁ、そう言うな。あれでも美味い肉を落とすだけの価値はある」

『それはそうだね! ゴブリンなんて臭くて食えたものじゃないもの』


 十頭以上のオークの集団が襲い掛かってくるが、ルーファスとナイトにとっては『美味しいお肉を落とすカモ』にしか見えていないようだった。

 リリが二人の背後で瞬きをする間に、オークは全滅している。

 そして、ルーファスが輝くような笑顔を浮かべて、塊肉を掲げるのだ。


「リリィ、オーク肉だぞ! チャーシューを頼む」

「はい。帰ったらレシピを調べますね」


 三キロはありそうなブロック肉はリリには重すぎるので、受け取らずにストレージバングルに触れさせて収納する。


『リリ、リリ! こっちはベーコン!』

「はいはい。ベーコン用の塊肉ですね。これは伯父の家に送って加工をお願いします」


 魔法でぷかぷかと宙に浮かぶ塊肉にも、そっと腕を伸ばしてストレージバングルに収納した。

 残りの肉を抱えて駆け寄ってくる赤毛の大男は、もしかしてドラゴンではなく大型犬なのではないだろうか。

 そんな益体もないことを考えてしまうほど、ルーファスは嬉しそうな、誇らしげな表情をしている。


(尻尾があったら、ぶんぶん振られていそうです)


 ここにボールがあれば、つい投げて「取ってこい」と口にしたくなるほどのワンコっぷりだ。

 黙って立っていれば、滅多にいないほどの美貌の持ち主のルーファスは燃えるような赤毛と黄金色の瞳をしており、とても迫力がある。

 気の弱い少女などが目にしたら泣き出しそうなほどの強面な外見をしているのに、無邪気に肉を抱えている姿が可愛らしく見えてしまうのだから不思議で仕方ない。


「リリィ。かくにを頼む」

『ボクもかくに食べたいっ』

「角煮ですね。私も食べたいので、頑張って作ります」


 次々と持ち込まれるオーク肉をリリは無心でストレージバングルに収納していく。

 三キロの肉塊が十個ほど。こんな量のお肉を目にしたのは初めてだ。

 にこにこと上機嫌のふたりをリリはじっ、と見据えた。


「二人とも、他のドロップアイテムも忘れないでくださいね?」

「も、もちろん忘れてなどいないぞ⁉︎」

『当然だねっ! 先に大事なお肉を確保しただけだから! はいっ、魔石!』


 慌てた黒猫がビー玉サイズの魔石を集めて持ってきてくれた。オーク肉に夢中なあまり、すっかり忘れていたようだ。


「お、リリィ。ポーションを落としたオークがいたようだぞ?」

「フロアボス以外もポーションを落とすのですね」


 ルーファスから手渡されたポーションを鑑定すると、中級ポーションだった。


「中級でした……」


 がっかりしていると、ぽんとルーファスに頭を撫でられた。


「上級ポーションはフロアボスしか落とさないぞ?」

「残念です。でも、ポーションが手に入るのはありがたいですね」


 美味しいお肉だけでなく、中級ポーションもドロップするオークはかなりオイシイ獲物かもしれない。


「この調子でお肉とポーション……こほん、オークを狩りましょう!」

「おう!」

『おにく!』


 宣言通り、この二人と一匹のパーティは出会うオークを片端から狩っていった。

 リリのレベル上げも兼ねているので、黒猫ナイトが適当に弱らせたところをクロスボウで仕留めていく。

 オークを倒した際の経験値は大きいようで、リリのレベルは飛躍的に上がった。

 


◆◇◆



 フロアボスがいる場所は洞窟の最奥で、冒険者パーティごとに挑むという、ゲームに似た形式になっていた。

 石の扉があり、そこを通り抜けると、扉が閉まってフロアボスであるハイオークとの戦闘が始まる。

 もちろん、これもルーファスが瞬殺した。


 ルーファスの戦い方はとてもシンプルだ。

 一応、冒険者のフリをしているため、大剣を装備はしているが、魔獣や魔物は基本的に素手で倒している。

 拳や蹴りを放つだけで、巨躯のオークたちはあっさりと地面に沈んだ。

 それは、オークの上位種であるハイオークが相手でも変わらない戦闘スタイルで。

 ハイオークは手にした長槍を構えることもなく、あっさりと頭部を潰されて息絶えた。


「すごいですね、ルーファス」


 感心したリリがぱちぱちと手を叩いて褒めると、途端に相好を崩すルーファス。

 くどいようだが、黙っていればイケメンなのだ。


「ふ、はは。そうだろう、オレは強いんだ。なんといってもドラゴンだからな! シオンともよく野良ダンジョンにこうして挑んだものだ」

「おばあさまとダンジョン。面白そうです。帰ったら、お話を聞かせてくださいね」

「もちろんだとも! オレの武勇伝をたっぷり聞かせてやろう」

『リリが聞きたいのはシオンさまの活躍だよ、おバカドラゴン』

「なんだと! そんなことはないよな、リリィ? オレの活躍もきっと聞きたいはず!」

「…………そうですね?」

「間が長い!」

『はいはい、分かったから。それより、フロアボスのドロップアイテムを確認するよ』


 地面に散らばるアイテムをわくわくしながら、リリも覗き込んだ。

 まず目につくのは、何といっても見事なブロック肉だ。

 普通のオークは三キロほどの肉をドロップしたが、それよりも大きくて強いハイオークは五キロはある肉を落としていた。

 まるで宝石のようにキラキラして見える、立派なバラ肉だ。

 ありがたくストレージバングルに収納する。

 肉の横にピンポン玉サイズの魔石も落ちていた。ビー玉サイズのオークのそれと比べても、かなり大きい。これはギルドでの買取額も期待できそうだ。


『リリ、こっち! ほら、宝箱があるよ』

「宝箱!」


 黒猫ナイトの声掛けに、リリは素早く振り返った。だって、宝箱なのだ。そんな素敵な響きのドロップアイテム、期待しないはずがない。

 

 宝箱はリリが両手を開いたほどの大きさをした、ジュエリーボックスそっくりだった。

 おそるおそる手に触れてみる。

 倒したハイオークが消えて、代わりに現れた不思議な宝箱。これは十階層から先のフロアボスを倒す度にドロップする報酬らしい。


「……私が開けてもいいのですか?」

「ああ、リリィが開けるといい」

『はやくはやく!』


 微笑ましそうにこちらを見守るルーファスと黒猫ナイトに急かされるまま、リリはどきどきしながら宝箱の蓋を開けてみる。

 中に入っていたのは、ぎっしりと詰まった銀貨とその上にぽつんと置かれたガラスの小瓶。

 上級ポーションだった。


「ポーションがドロップしました!」


 お目当ての上級ポーションが手に入って、リリは大喜びした。

 宝箱をぎゅっと抱き締めて、感慨に耽るリリの肩をルーファスがぽんと優しく叩いた。


「良かったな。さぁ、もう一度フロアボスに挑むぞ、リリィ」

「……え?」

『たった一個だけじゃ、稼ぎも少ないでしょ? フロアボスには何度でも挑戦できるから、たくさんポーションを手に入れないとね!』


 たしかに、一個だけでは不安だったので、リリも素直に頷いた。

 すべて買い取ると伯父の言質も取ってある。

 上級ポーションは多ければ多いほど、稼ぐことができるのだ。


(それに、何かあった時のために、自分たちの分も確保しておきたい)


 宝箱の中身を確認する作業も楽しいし、と軽く二人の提案に乗ったリリは後悔することになる。

 

「まさか、二十回も周回するなんて思いもしませんでした……」


 リリが喜ぶから、と無邪気に挑み続けた二人のおかげで、上級ポーション二十本と魔石に肉、銀貨や宝石などの戦利品を手にすることができたのだった。



◆◆◆


ギフトありがとうございます。

おかげさまで、書籍化進行中です!

詳細は後日、ある程度の形になりましてから報告しますね。


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