File2 純一、お守りをなくす〜真美と出会った日

純一が、十数年前に真美や花川たちと出会った記念日・4月5日の朝。純一はリビングのソファでスマホを見ようとした。

「あっ!」

何かに気づいた。

いつもスマホにつけているストラップが無くなっていたのだ。

そのストラップは、純一が小学4年生の頃に体育の先生からもらった、純一からすればお守りのようなもので、純一には、あの時の記憶がよみがえってきた。


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小学4年生のときの純一と純平の誕生日。

4時間目の体育の授業が終わり、クラスメイト達は体育館から教室へ戻ってゆく。だが、二人だけ生徒が残っていた。双子の兄弟・・・、純一と純平だ。

「なんでケガしなくちゃいけないんだよっ!」

純一は体育館の隅っこで座っていた。転んで足をケガしたのだ。

「兄さん、早く保健室行こうよ。」

純一の前には、純平が立っていた。

「あれ、二人とも。まだいたの?」

体育の教師・高鳥(こうとり)先生が話しかけて来た。

「うん。兄さんがケガしたみたいで」

「そうか。ばんそうこうあるよ」

高鳥先生は純一の足にばんそうこうをはった。

「先生・・・」

「話変わるけど、兄さんこう見えて友達少ないからね。」

「そうなんだ。純一君、これあげるよ」

そう言って先生がポケットから取り出したのが、青くて丸い、中に何か入れられそうなカプセルに小さな鈴が着いたストラップだった。

純一は立ち上がってからストラップを受け取った。


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「ストラップ、どこに行ったんだろ」

純一はリビングを探しまわっていた。

「純一、何やってんだ」

ソファに座りながらテレビを見ている夏が言った。

「兄貴。小4の頃にもらったストラップ、無くしちゃったから探してるんだよ」

純一は、不思議そうな顔をしながら自分を見てくる夏に答えた。


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「何が入ってるのかな?」

純は自分の部屋で純一のストラップのカプセルの中身を見ようとしていた。どうやら、ストラップの中には何かが入っているみたいだった。

イスに座り、ストラップを机に置いた。

「何が入っているのか・・・。気になる」

ストラップを見つめる。

「よし、開けよう!」

純はストラップを手に取り、開けた。

「写真・・・?」

ストラップの中には、たくさん折り曲げられて小さくなった一枚の紙が入っていた。写真だ。

その写真には、純一と、純一にそっくりなもう一人の男子が写っていた。そして、「兄さん大好き」と書かれていた。

「誰だ、この人」

そうつぶやきながら紙を裏返した。

「ん?『兄さんへ この前はありがとう。』?」

紙の裏に書いてあった文字を読み上げた。

紙にはまだたくさん文章が書いてあった。

「ってことはこの人、純一兄ちゃんの弟⁉︎どうりでそっくりなわけだ。」

純は紙を表にして、もう一度写真を見る。

「超そっくり・・・」

紙をカプセル中に入れると、カプセルを閉じた。


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夕方。リビングの机の上には夏がつくったご飯が並べられていた。イスに座った純一は、ため息をついた。

「兄ちゃん、ストラップのことなんだけどさ・・・」

純一がため息をついたのに気づいて、向かいに座っていた純が言った。

「え、ストラップが無くなってたのは、純が取ったからなの⁉︎」

ストラップの話を純がし始めたので、純一は驚いた。

「そうだよ。カプセルの中に、こんなものが入ってたよ」

純は純一にストラップの中に入っていた紙を渡した。

「写真・・・?純平?」

純一には、前に座っている純が、双子の弟・純平と重なって見えた。

「アイツ、こんなの入れてたなんてな」

「この中身見たことなかったのか、純一」

純の隣に座っていた夏が言った。

「あれ?兄貴も見たことあったのか?」

「うん」

「ええ⁉︎見たことあったの⁉︎そういえば、このストラップ、オレが真美たちと出会った記念日にもらったような?」

純一は、そう言いながらスマホのカバーにストラップを付けた。 

「純一たちにとっては記念日かあ」

夏は笑いながらそう言った。


カプセルの中に入っていた紙には、純平と高鳥先生が「ちょっとしたサプライズに」と思って書いた、「誕生日おめでとう」と言う内容が書いてあった。だが、純一は、ストラップをもらった小4のとき、そのストラップについた「青い丸」がカプセルだということは知らなかったため、今まで開けていなかったし、中に入っている紙の存在すら知らなかった。

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