第18話 飛んで向日葵

「向日葵で、羽を作るのですよね」

「さっき、痛かった茎とかは使わないで、花だけを使おうよ。一人、六つね」


 各々、花を集めた。

 しっかりついているものだから、オレは力任せに、密流くんは便利なゴールドパスをカッターにして採った。

 三つの花で羽一枚に見立てて、羽、四枚分を嚙合わせる。

 真冬の向日葵だったのだろうか。

 露を滑らしていた。


「こんなに甘い噛みで大丈夫なのですか? イカロスの比ではありませんよ」

「うりゅ」


 密流くんはゴールドパスをとんっと叩いていた。

 万能パス、まさに魔法のパスだ。

 密流くんの本体と聞いていたけど、よく分からなくなった。


「分かったよ。花粉を振りかけてだって」

「え? 向日葵のですか」

「親和性が高いみたい。別の花をもぎり、チョップしてみよう」


 オレには、分からない。

 裸の王様なのだろうか。


「それから、水分があるといいそうだけど」

「幾分か花弁が湿って、露がありますが」

「オッケー!」


 美少年密流に、サムズアップは、不似合いだと思った。

 儚く美しいイメージは、刻々と崩れて行く。

 可愛いと想う心は増すが。


「これが羽で、これで飛べるのか、不安が残ります」

「口にしたら、負けだよ。信じて行こうよ」


 腰の辺りをパーンと叩かれた。

 湿布が欲しいと思っている内に、密流くんの次の指令が出る。


「僕の肩甲骨が分かるかな」


 彼が、背中を向けて少し屈む。


「細いね、密流くん……」


 実は、ぎゅうってしたくなっていた。

 しかし、変態は後にして、取り敢えずラビリンスを出よう。


「先に、密流くんの肩甲骨に、二つ貼り付けました」

「うりゅうりゅ。いい感じだよ。次は、高塔さんね」


 心の中では信じていなかったが、これが最良の策なら従うしかなかった。 


「もうちょっと、屈んでよ。意地悪、ぷう」

「ああ。ごめん、ごめん」


 オレが膝を折ると丁度いいようだ。


「しかし、ショックです。科学は、科学はいずこへと思います」

「どうにかなるものだよ。高塔さん」


 オレの背にもあるようだが、軽くて分からない。

 もしかして、向日葵そのものが、幻覚かもしれなと疑い始めた。

 オレは、考え込んでしまうタイプなので、そこへ密流くんの助け舟がきた。


「大丈夫だからね。では、ダイダロスとイカロスになって――」

「……どこへですか?」


 飛び立ち失敗。


「遮らないでよお! もう、上でしょう?」

「……上か。上の階にぶつからないのですか」

「せーの! は? 質問な訳?」


 二度目の飛び立ち失敗。

 タイミング合わず。


「あのさ、疑問を捨てようよ。不思議なことで溢れていて当然なのが、時計城なんだよ」

「では、もう終点にきたのですか。二駅は降りられないとありましたが、それも、過ぎたのですね」


 密流くんに、花粉用の向日葵で叩かれた。


「お尻ペンペンするよ」

「もうしてますよ」

「素手でしたら痛いからね」


 向日葵を捨てて、素手の構えをされた。

 結構、眼光が鋭い。

 真面目な密流くんだった。


「分かりました。煩悩は捨てます」

「では、合図はせーので行くよ」


 夏らしく熱い向日葵に囲まれながら、風を読み取っていた。

 人差し指を密流くんが濡らす。

 特別な意味はなかったのだが、オレは照れくさいことを考えてしまった。

 ああ、大人って汚い。

 彼は、風向きを確認したようだ。

 オレに向かって頷き、体の向きを直角に変えた。

 真似るしかない。


「せーの」

「せーの」


 追い風が舞い上げる。


「ととと」


 三歩は爪先が当たったが、その段階で、二人は羽ばたいていた。


 バッ。

 バッ。


「おお――! ラビリンスが俯瞰ですね」

「きゃほ――! 僕の先へ、ゴールドパスが道を照らすんだ。後からきて」


 バッサバッサ、バッサバッサ。

 体感時間にして十五分後、向日葵のラビリンスを抜けた。

 しかし、ホラー体験が待っていようとは。


「ひいい……!」


 満月が煌煌と照らす改札のホーム側にきた。


「これは、最初の駅でしょうか?」

「いや、『**城』って駅だよ。電車にあった行先の『**城行』の終着駅じゃないかな」


 実在したのか。

 もっと手前で事故に遭ったと思っていたが。


「帰るときは、これに乗らないとなりませんよね」

「その前に、この改札に入ったら、時の方と下僕の巫女、焔灼に筒抜けだから、気を付けた方がいいよ」


 折角、天守閣にバレずに、天守閣を通らずに改札付近までこられたが、水の泡か。


「これも、零時と十二時ですよね」

「単線らしいからね。そうなると思う」


 終着駅と始発駅では、ダイヤもズレるだろう。

 密流くんは、自由なダイヤと言っていたが。

 自由が度を越せば、零時と十二時と推察される。

 魔法なのか。


「ここにいる意味ってありますか。ここで果たしたいことって、なんですか」

「僕のこと?」

「そうです」


 意味がないなら、まほろば大学の最寄駅方面へ帰りたい。

 ひっくり返っておじゃんになった自転車も回収して、できれば、密流くんを我が家に連れて帰りたい。

 多少反対されるかも知れないが。

 お母さんは、黙ってご飯を出してくれると思う。


「僕は、澄青と東風以外で、気に入った苗字を探しているから、それを叶えたいな」


 それは、聞いて覚えているんだ。

 肝はどうしてかだ。


「どうして、時計城なのですか」


 密流くんは、ゴールドパスを胸元にしまってあることを確認しつつ答えた。


「ゴールドパスをあと一つ、つまりは、四枚の角を合わせると、完璧な姿となるらしい。もう一人の所有者を探して、スーパーゴールドパスとなった回路に、自分を映せばいいと、神原来世お姉さんから聞いたんだ」


 謎は深まるばかりだ。

 そうなると、もう一つのゴールドパスの持ち主を捜さないとならない。

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