二十四
早朝の出航に向け夜半ともなれば、殆どの者は深い眠りについていた。しかし、隆吉達はこの船に隠れている渋谷を出航前に探し出す事に専念していた。
喜八が言うには、渋谷は国内外を超えて武器の密売をしているらしい。
この事実を知った隆吉は以前に見た渋谷の腰元の銃や中津川との蜜月な関係性など、渋谷が武器商人であれば自然な事だと腑に落ち、夢から覚めた気分になった。
「何処にいやがる、あぶねぇもんが置いてある場所は変えてあった、きっと渋谷が知ってる筈だ必ず出航迄に探し出すぜ」隆吉達は落葉松の次平よりも遥か以前から伝わると云う秘伝の忍び足で船内を隈なく捜索するも儚く、渋谷は見つからなかった。
しかも、悪戯にもその動きは浦上に察知されていた。船長室の覗き穴から外を伺い誰かを探し回る数名の男を確認すると、浦上は一緒に船長室に居た渋谷に「探されてるよ」と背中越しに話しかけた。
渋谷はグラスのウヰスキーをひと口呑むと「大丈夫さ、まだ見つかっていないよ」そう答え、立ち上がり、銃を握ると浦上の気付かぬ間に船長室の扉に銃口を向けていた。
渋谷にとってこの密売こそが人生最大にして最後の大仕事だった。男としての力強き肉体の終焉の時、それが目前にある今、この仕事に命を捧げていた。渋谷の凄まじい意志力はまさに尋常では無かった。
渋谷は銃を仕舞うと銘のある煙管でタバコを炙ると大きくその煙を呑み込むと、遠くを見つめるような眼をして「明日は必ず出航する」そう云うとソファに横になり、ゆっくりと目を瞑った。
浦上は「余裕だね」そう言って自分はただ海を眺めているのだった。
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