二十一

 浦上を船長に引き入れた後、数ヶ月の間は特段の波乱はなく、出航に向けて事は順調に進んでいた。


 この間、なにかと世話好きな義三郎は隆吉を大型商船に乗船させ、船を十日間ほど巡航させた。これは隆吉を船に慣れさせるため、義三郎が特別に手配したものだった。


 「どうだ、慣れたか」義三郎は帰港した隆吉に尋ねると「はい、海の上も悪くはないですね」と嬉しそうに答えた。

 何かを掴んだような晴々とした表情の隆吉を見て、義三郎が得意気になって「これで出航は成功だな、それとな、船の名前を考えておけよ、そろそろ完成が近いからな」そう言うと、隆吉はニコッとして「へい」とだけ言って義三郎と別れた。


 ––––港からの帰り、隆吉は船名を考えていた。


 地面を歩き、まだ海の感覚が残った身体はふわふわと宙に浮いている様な感じがする。そう思った隆吉は「これだ」と心で叫んでいた。


 その直後、思わず口を発して出たのは「ソラウミマル…」という言葉だった。


 暫くソラウミマルという言葉を考えてみて、船名は漢字で[宙海丸そらうみまる]と書く事に決めた。


 巨大な船に自分の命名した名前が描かれているのを見たとき、必ず世界一の貿易商になれる、そう確信した。

 そして、隆吉は宙海丸そらうみまるの甲板に立つと、その心地好い緊張感に心を昂らせていたのだった。

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