別れ話はできればしたくない。

 そう思う感傷的な心とは裏腹、言葉が意思を持っているようだった。


「そうだよなあ、でもな、俺の気持ちがそれでも変わらないってことも、お前たちが一番よく知っているだろう、こればかりは人間生まれたらいずれは死ぬのと同じで、もう逆らえね自然の摂理みてえなもんだぜ」


 「そりゃねえよ、お頭、おいら寂しいぜ、こうやって三人で仕事出来なくなるのが寂しくて仕方ねえ、ましておれには家族なんてもんはいやしねえ、おまけに学もねえし、帰る田舎なんてもんもねえ、盗み以外に取り柄なんてもんはねえんですぜ。盗みができねえこの先のことなんか、なんにも考えらんねえよ、お頭頼む、頼むから辞めるなんて言わねえでくれ」


 「喜八、やめな、もう何言っても時間の無駄さ、こんな唐変木のちんちろけをこの世に現しちまったことが、神様のお間違いなんだ、諦めるんだね、もう金輪際関わらないのが身のためさ、道端の糞みたいに放っておけばいいのさ、いいかい、これからは二人で盗みを続ければいいんだ、もうたくさんだよ、こいつの我儘に付き合うなんてのはね、はらわたが煮えくりかえっちまってしかたないよ」


 「で、でもよ、咲姉、お頭の代わりはおいらには勤まらねえよ」


 「いいんだよ、隆吉の代わりなんてしなくたって、私がやってやるのさ、天下の女盗賊さ歴史に名の残るほどの大仕事をやってのけてやるのさ、なめんじゃないってんだよ三つで親に捨てられてそれからひとりでここまで生きてきたんだ、お天道様が毎日上ってくるなら私は生きていけるのさ、隆吉、あんたがいなくたって大したことないさね」


 「うむ、それえ聞いて安心したぜ、さすがは丈菊じょうぎくのお咲だ」


 こうして隆吉を頭とした盗賊団は今日をもって解散した。

 

 ともあれ、最後のお勤めである大丸屋の仕事だけはきっちりとこなしてから三人は分かれたのであるが、別れ際に隆吉がお勤めの成果を全て二人に渡そうとすると、お咲は断固として受け取らず、きっちり三等分で分けたのである。盗賊の頭としてこれから生きて行くお咲の決意と隆吉との決別を込めてのことだろう。


 お咲がどうしても引かないので、隆吉はそうするしかなかった。


 頼もしいほどに義理堅く、頑なに昔気質むかしかたぎな女盗賊が最後に、「世話になったね」そう言うと、喜八と二人遠く西へと消えていった。

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