十七

 サァーっと涼風が吹いて、庭先の大きな銀杏いちょうを揺らしている。

 使用人らしい男が、口元を隠し義三郎へ何か伝えると、義三郎はにたりとした表情で小さく頷いた。


 「倉本君、君は運命を信じるかな」


 「運命ですか、どうでしょうね、信じるというよりは、逆らってもあちらからやってきちまうんだから、仕方ねえ受け入れてます」


 「グハハ、そうか、君も厄介な運命に気に入られてるようだな、わしも同じようなものさ、今連絡が来たのもそういうことだろうな、晴美、悪いが少し外してくれ」


 田所が部屋を出ると、義三郎は続けて話し始めた。


 「なあ、仁仏の隆吉よ、ついさっき一時的に中断していた商船の造船が正式に取消しになった、これが今起こるのが不思議で仕方ないが、お前の持ってる宿命がそうさせるんだろうよ、どうやらこの船はお前を気に入ったらしいが、欲しいか」


 「ええ、欲しいですとも」


 そう短く答えると、二人は微笑んだ。


 –––––こうして、隆吉は待望の商船を手に入れたのである。とはいえ、これから先は何も知らない世界、航海のこの字も知らない、それでも嬉しくてたまらなかった。

 いつしか、義三郎を越え、世界一の大親分になる。隆吉の野望は乗り越えるべき壁を見つけ、形あるものに変わりつつあった。

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