好きな子

ぷりん

可愛すぎて直視できない

 夏。それは開放的な季節。

 また、好きな子の素肌が晒されてドキドキしてしまう季節でもある。それなのに、何故俺はもっとドキドキするところに来てしまったのだろうか?


『よしくんも一緒に遊ばない?』


だなんて、俺こと日向佳孝ひなたよしたかに小首を傾げて聞いてきた子で、好きな子でもある葉月晴はづきはるちゃんの誘いに断れなかったからですね……

 あーなんで泳げないのに海に行くのを聞いて断らなかったんだ俺のバカ!

 でも、晴ちゃんの水着姿が眩しくて直視できないぐらい可愛いからそれだけで来た意味はあったかな。


「よーし、葉月の方見過ぎだぜ」

「えっ、バ、バレてた⁈」

「オレしか気づいてないだろうし大丈夫だろ。にしても、オレも誘って良かったのか?」

「もちろん!だって女子二人に男一人とかなんかね……だから海野が来てくれて助かったよ。それに、海野って海の漢って感じがすごいし」

「あはは!それなら良かったぜ!」


 そう言いながら隣に座った男は俺の友達の海野斗真うみのとま

 爽やかな男である。誰とでもすぐ仲良くなれるんだけど、一緒に遊ぶ友だちはそんなにいないらしい。何故か俺とは結構遊んでくれるんだけどなにかしたかな?


「そいや、いつの間に他校の女子と知り合ったんだ?」

「あ、市の図書館に行った時に高いとこの本が届かなくて困ってたから取ってあげたんだよね。そのあとになんか懐かれちゃって……それから晴ちゃんにも会ってたみたいで仲良いんだって」

「なるほどな〜さっすがよし!お人好しだな!」

「困ってる人放っとけないだけだよ」


俺は笑って答えた。

 懐かれるだなんて思っていなかったけれど、困っている人を放っておけないという俺の性分が働いて助けただけ。

 たったそれだけだから。


「よしさーん、一緒に遊びましょうよー!」


さっき話題に出した女の子、長月美兎ながつきみうが大きな声で俺を呼んできた。

 ポニーテールで活発で可愛い女の子が、冴えない俺のことを呼んでいると言うのはとても注目されてしまうもので……視線が痛い。


「よし、行こうぜ」

「そうだね」


俺たちは立って二人が手を振っているところに行こうと歩いた。

 そんな時だった——


「めっちゃ可愛いじゃーん。誰に手ぇ振ってんの?」

「あいつじゃね?」

「うっわまじで?もっといい男いるだろ?例えば俺とかどうよ⁈」

「さっすが兄貴!自己肯定感高いっすね!」


 美兎の手を掴んでいる見るからにチャラそうな男が俺を指さしていった。

 

「離してください!美兎はよしさんを待ってるんです!それ以外はお呼びじゃないです!」

「そうですよ!美兎ちゃんの手を離してください‼︎」

「俺は強気な女の子も好みよ?」


 美兎と晴ちゃんの講義を聞き入れず男は美兎の手を離さないままだ。しかも、晴ちゃんの手も握ろうとしている。

 俺は走った。砂浜の上とか走りづらいけれど、放っておける問題ではないから。


「その手を離せよ」


 思っていたより低い第一声。だが、圧を込めるためにはそれでいい。

 男たちが二人から離れるならそれでいいんだ。


「あ?なんだお前、女みたいな顔しやがってよ。しかも腕も細くてなよっちぃじゃねえかそれでどうするつもりだよ!」

「兄貴言い過ぎですぜ!ぷぷっ」

「あーあ、あんたら……」


あーもうダメだ。

 好きな子と友だちをナンパされた上、自分のことまで貶されたら。

 しかも……


「誰が女顔だって⁇」

「いっ⁈」

「よしがマジで怒っちまったじゃねえか」


俺の一番の地雷踏み抜いてきやがって!

 女顔とか、なよっちぃとか言われるの気にしてるのに!しかも身長も伸びないから余計にね!

 美兎の腕を掴んでいた男の反対側の腕を思いっきり力を入れて握った。

 すると、美兎の腕から男の手が離れた。


「いってぇだろうが!」

「え?ただの男子高生の力で痛がってるようじゃダメじゃないですか?そんなんじゃただいきってるだけですよね?」

「てっめぇ!」


あっ、やばい煽りすぎたかも。

 グーパンチされそうなんだが、当たったらさすがに痛いよなあ。

 と、思っていたら


「それはやりすぎなんじゃないすかね?それと、こんな人目につく海で怪我させたって知られたらウチの会長様がとんでくるっすよ」

「う、うちってまさかお前らの高校って……お、おい!行くぞ!」

「あ、あにきぃ!」


斗真が間に入って止めてくれて、男たちを追っ払ってくれたのだ。

 ウチの会長というのは、俺たちが通っている生徒会長のことであり最強と恐れられている。


「よしさん!ありがとうございまずぅ!」

「って、なんでそんな泣きそうな声なんだよ⁈」

「だっでぇ……怖かったんですもん!」

「よしくんさすがだね!」

「は、晴ちゃん……お、俺はなにもしてないし!斗真が追っ払ってくれたから!」


晴ちゃんの顔が近いから戸惑ってしまう。

 話すので精一杯だから大変なんだよ!

 

「飛び出してったのはよしだけどな〜それに、会長が怖いのはほんとのことだろ?」

「あー、だね」


同意して首を縦に振った。

 あの人怒らせると怖いからなあ。

 その話はまた別のところで。


「じゃあ気を取り直して遊びましょ!」

「そうだね!いっぱい遊ぼうね」

「おう!」

「うん!」


 それからはスイカ割りをしたり、ビーチバレーをしたり、浅瀬で水を掛け合って楽しんだのだった。


 海って大変なところだと思っていた。

 でも、前言撤回しよう。海は最高でした!



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