《Wi-Fi接続》 Ⅲ

「すげえ……ちゃんと通信できる、ソシャゲのログボ回収できるじゃん! ヒュー!」

「待て待て待て待て待て待て」


 何を言っているのかさっぱりわからない、わいふぁい? とやらを何に接続したって?


「えーっと、なんていったらいいかな、目に見えない波みたいなものがあって……」

「め、目に見えない、なんじゃって?」

「それがあるとこのスマホ……えーっと、板でさ、遠くの人と話したり映像を送ったりできるんだけど……」

「…………………………」

「この世界だと電波がなかったから使えなかったんだけど、多分俺……《Wi-Fi接続》できるようになったんだ……体から5Gが!!!」


 言われた言葉の全てを理解できず……。

 アンゼリセは普通に泣いた。


「嫌じゃーーー! なんかいきなりワケのわからんこと言い出したのじゃーー!」

「待ってくれよアンさん! これすごいことなんだって! ほら、電波強度最大でさあ!」

「うわーーーーーーーーん!」


 余計なことをするんじゃなかった、こんな奴、街の外に放り出して犬の餌になるまで放っておけばよかった。

 神がしてはいけない仕方の後悔をしながら、一応アンゼリセはスキルの中を覗いてみた。


 《焼き肉食べ放題》はなんかよくわからなかったが、流石に中身を見聞すればどういうものかおおよその想像はつくはず……少なくとも《業炎剣カルマイド》は考察が出来たではないか!


 果たして、アンゼリセの予想以上には、その詳細を確認することが出来た。





・第一階梯スキル 《Wi-Fi接続》

 LV1 パッシブアビリティ《電波接続》

 LV2(未取得) パッシブアビリティ《自動ログボ回収》

 LV3(未取得) パッシブアビリティ《おやすみ充電》

 LV4 ■■■■■文字化け




 怖い。

 中身がある程度見えるのに、何が書いてあるか全くわからない。どれがどういう効果で何がなんだって?


「じどうろぐぼかいしゅう、って何じゃ」

「自動ログボ回収!? え、神アビリティじゃん!? マジで!?」


「わからんー! もう何もわからん! そなたが何に喜んでるのかもわからん!」

「いや、かなり革命的なんだけど……いや、でもそっか、結局充電できないのか……」


「じゅーでん……って、何か、あるが、そんなアビリティが……ちょい先に……」

「マジで!? うっそぉ! 神スキルじゃん《Wi-Fi接続》! やったあ!」


「怖いよーーーーわらわ今日ほど怖いことはないよーーーこのクソバカを今すぐ制裁したいよーーー」

「サンキューアンさん……俺、正直、今までずっと怖かったけど、なんか日常の一欠片が戻ってきて、頑張れる気持ち、湧いてきたよ」

「わらわがこんなに怯えてるのに一人で勝手に決意を新たにして前向きになっとるんじゃないわ殺すぞ!!!」

「情緒不安定だなあ」


 誰のせいだと思ってんだ。

 恨みがましい殺意のこもった視線を向けるも、イツキは光る板……すまほ? とやらを楽しげにいじっているだけだった。


「ええい、やることが終わったならもう帰れ! ようわからんが戦闘に使えるスキルじゃないんじゃろ!? 明日からもそなたは武器の使えぬ火力調整失敗ビルドじゃばーかばーか!」


 神にあるまじき暴言だったがこれぐらい吐き散らかす権利ぐらいあるだろう。

 アンゼリセの悪態に、イツキははっと顔を上げた。


「そうだった! 出来ることは増えたけど問題は何も解決してねえ…………うおっ!」


 突如、イツキが光る板を取り落とし、体を抱くように身を縮こまらせた。


「な、なんじゃ、どうした?」

「せ…………」

「せ?」













「背中が熱い…………!」











「嘘じゃろそなた!?!?!?」


 ここに来て経験豊富なアンゼリセは気づいた。

 気づいてしまった。


 《Wi-Fi接続》とやらは、理屈は分からないが、それがあるとイツキの持つあの板を正常に稼働させる事ができるスキルらしい。


 それは、あの板を操作する限り常に発動し続ける。


 


 そしてそれは、《急成長》スキルによって加速し――――次のスキルが生じようとしているのだ。


「嫌じゃあああああああ絶対これ変なスキルが生まれるのじゃあああああ」

「熱い! うおおお! 背中が! アンさん! 頼む! なんとかしてくれ!」

「そのまま焼け死んでくれええええええええ」

「《業炎剣カルマイド》のお陰で炎熱無効だよ! ……じゃあなんで熱いんだ俺!」

「物理的な熱ではなくて神経が圧迫されることによって熱いと感じているだけじゃからのう」


 それに伴って体温が上がるのである意味間違いではないにせよ《炎熱無効》でなんとかなる感じの痛みではないはずだ。


「だったらなんとかしてくれませんかねえ!?」

「じゃあわらわに誓え! 絶対によくわからんスキルを生やさないと!」

「それ俺が約束してなんとかなるもんなの!?」

「《技能樹スキルツリー》は本人の意思が反映されることもある! 気合じゃ! そなたの気合でなんとか食い留めるんじゃ! 真っ当なスキルに派生すると! そう強く思え!!」

「わかった! 誓う! 強く思う!! だからお願いします!!」

「よぉーしいい子じゃ……信じたぞ……わらわを裏切るでないぞ……」


 もちろん、アンゼリセはこの時点で正気ではなかったので当然のことに気づいていない。


 わけのわからねえスキルから派生するスキルなんぞ、

 わけのわからねえものになるに決まっていると。



「第二階梯スキル……これじゃあ!」

「っ、何か…………力が湧いてくる感じがする!」


 果たして、新たに《技能樹スキルツリー》に刻まれたスキル名は……。


















・第二階梯スキル

  伝説級レジェンダリー固有種オリジンスキル《雷帝竜らいていりゅうインデュラ》










「………………………………」

「え、何!? アンさん! 何スキルだったの!」


 ぽか、と背中に軽い衝撃。

 新たなスキルの発現によって熱が引いていくイツキの背を、アンゼリセは静かに叩いた。

 何度も。


「嘘を…………」

「アンさん?」


 何度も。何度も何度も。


「嘘をついたな貴様!!!! わらわに!!! 普通のスキルにするって言ったのに!!!!」

「俺のせいなの!?!? え!?!? 何!?!?」

「うわぁーーーーーん! どこのだれじゃあーーー!!」


 知らねえスキルから知らねえスキルがまた生えたショックを受け止めきれず、アンゼリセはそのまま力尽きるまで泣き続けた。

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