第一話 イツキ・アカツキ、探索者になる。

《Wi-Fi接続》 Ⅰ


 武器ウェポンスキル。

 これは文字通り、、である。


 武器を扱うスキルではない、ということには留意すべきで、例えば《片手剣》《杖術》などといった『その武器の扱いの習熟をあらわすスキル』とは違うものだ。


 名工が作った特注武器だとか、迷宮から発掘された魔剣だとか、出自が特殊でその武器そのものに逸話があるような特殊な装備が該当し、例えば【ランペット宝樹迷宮都市】の最上位ギルド、【猛る王虎】のエースは《宝剣レンヴィル》というスキル付きの武器を所持していることで有名だ。


 剣を手にした時点で《技能樹スキルツリー》にその名前が刻まれる……いわば自身の才能とは無関係な、外付けで得られるスキル。

 経緯が特殊な分、強力なものが多く、探索者達の憧れの一つと言えるだろう。


 伝説級レジェンダリースキル。

 これはもっと特殊で、逸話や神話がスキルとなったものだ。


 難攻不落の迷宮を踏破した豪傑、魔王を打倒した勇者という人類の歴史上に名を刻んだ英雄の名を冠するスキルもあれば、一国を一夜にして滅ぼした魔獣、大量虐殺を犯した殺人犯といった、負の逸話であることもある。


 大事なのは、世界に、歴史にその出来事を刻みつけるほどの偉業を成すこと。

 あるいは神々に認知され、知られ、『そうである』と思われる共通認識があること。


 例えば迷宮都市から南の大国ヒャックマールでは、その叡智によって動乱を治めた王の子孫の一部に、始祖の名を冠する《賢王ヒャックマール》という伝説級レジェンダリースキルが発現する事がある。

 不思議と世代に一人にしか現れない為、このスキルを発現させたものが次期王になるのだとか。


 あるいは、極刑となったその殺人犯の孫が、全く無関係な迷宮都市で《技能樹スキルツリー》を育て上げた際、《殺人鬼ガリン・ダリン》なる伝説級レジェンダリースキルを発現し、己の出自を知ることになった……といった話があるように、実際の伝説級レジェンダリースキルはその当人よりも子孫に生じる事が多い。


 さて、そういう一面から紐解いてみると、《業炎剣カルマイド》なる伝説級レジェンダリー武器ウェポンスキルは、『世界の何処かに存在する、伝説の魔剣を手にしたものに与えられるスキル』である、という考察が出来る。


 世界は広い、アンゼリセが知らずとも、一つの民族が信仰している様な、あるいは恐れているような武器はあるだろう。

 もしくは、何処か遠い地の神話形態に伝わる武器の名なのかも知れない。


(問題は、なんでそんなモンが第二階梯などという浅い位置で、しかも《焼肉食べ放題》なんぞというよくわからんスキルから派生したかなんじゃが……)


 現物なしで武器スキルが付与される事なんて聞いたことがないし、それが伝説級となればなおさらだ。

 仮にイツキ・アカツキが《業炎剣カルマイド》という武器に深い縁があり、血統にその素養が刻まれていたとしても、それは《技能樹スキルツリー》の頂点で花開くべきであって、断じてこんな浅いところで得られていいようなスキルではないのだ。


「どうしたもんかのう……」


 しかし発現しまったものは仕方ないのだ、可能性の段階なら剪定もできようが、今更切り離すことはできないだろうし、イツキもそれを望むまい。

 彼が求めていた『戦うための力』であることには間違いないのだから。


「アンさーん、居るー?」


 そんな事を考えていたら、当事者の声が神殿の外から聞こえてきた。


「………………」


 居留守使っちゃおうかな、と思ってしばらく黙ってたら、ずがずがと足音が聞こえてきた。


「あ、居た居た。アンさーんちょっと聞いてよ」

「許可もだしてないのに入ってくるんじゃないわい!!」


 とりあえず殴った。


 アンゼリセ神殿、と呼ばれるこの建物は、かつて人々が建立してくれたものであるが、今は老朽化して朽ちるままにされており、アンゼリセ自身それを良しとしている。

 作業部屋であるこの一室を除けば、扉が朽ち果ててしまっているので当然鍵もかからない。


「わざわざわらわのところに物盗りに来る阿呆なんぞこの街にはおらんわ。で、何が困ったって?」

「そうそう、結構大変でさー……あ、これ土産の迷宮まんじゅうね」


 机にもさ、と置かれたのは、商店街でよく販売している観光者向けの蒸しまんじゅうだった。土産を持ってくるくらいの礼節はあったのか……。


 ……このイツキ・アカツキと出会ってから一週間が経過した。

 あの日以来、彼がアンゼリセ神殿を訪れることはなかったが、人づてに話を聞く限りだと、アンゼリセが勧めた通り、探索者ギルドの初心者講習を受けて、迷宮探索の体験会(チュートリアル)をちゃんと行っていたようだ。

 わずかばかりの日当もでただろうし、雑魚寝であれば探索者ギルド提携の宿なら格安で寝床にありつける。


 それでも不慣れな環境に叩きこまれて憔悴していないか、若干心配しないではなかったものの、どうやら割と元気にやっているようだった。


「とりあえず剣が欲しくて、探索者ギルドから剣を借りたんだよ、一日千ディオールで」

「ああ、初心者用なら妥当なところじゃな」


 右も左もわからない駆け出し探索者をなるべく死なせないように、装備を貸し出し、仲間を斡旋し、連携を叩き込み、第一階層を踏破させる、というのが現在の探索者ギルドのスタンスだったはずだ。

レンタルした装備は、金を全額払えばそのまま自分ものにして良い、という仕組みであり、実際は後払いで武器を買うようなものだ。


「んで早速魔物相手に試してみたんだけどさ」

「どうじゃった? うまくいかんかったか?」


 これは軽く意地悪するつもりで言った質問だったが、当の本人は頭をかきながらあっさりと。


「いや、

「………………ん?」


 そうのたまった。

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