《焼肉食べ放題》 Ⅴ


「つまり……焼肉食べ放題に行けるスキルなんっすね」

「本当になんだったんじゃあれは……」


 支払いを終えて店から出ると、アンゼリセ神殿の中に戻ってきて、【転送門】は消滅した。つまり任意の地点からあの店に一方通行で行けるスキル、ということか。


「いや、アンさん、すんません……あんだけ中身地元の焼肉屋なのに円払いできないとは思ってなくて……」

「まあわらわも食べるだけ食べたからそれはいいんじゃが……」


 とはいうものの、《焼肉食べ放題》の中身が判明した今、これで戦えというのはいささか無理があるというか、いざという時の、と考えても、極めて有用であることには間違いないが、探索者として迷宮で立ち回れるようなスキルではない。


「…………まぁ、なんじゃ、面白いスキルじゃったと思うぞ」


 あの店長は何処から来た何者なんだよとか言いたいことは死ぬほどあるのだが、細かいツッコミを放棄した上で。


 イツキが店内で器具や施設を使いこなし、メニューまで把握していたことを考えると、彼のイメージを元にした異空間を生成するスキル、なのではないだろうか。

 それはそれで驚異的であるが、全く意味不明なよくわからんスキルから一応理屈で飲み込めるくらいまでは理解ができた。手持ちの金銭を消費するスキル、というのも少ないが存在してはいることだし……。


「…………ぐああ!」


 そう思った矢先、イツキはその場でしゃがみこんだ。


「! どうした!?」

「な、なんか背中が……クソ熱いんすけど!」

「へぇ!?」


 スキルは……使い込めば使い込むほど、熟練度を増し、その中身を充実させ、新たなスキルへと連鎖して繋がっていく。


 そしてイツキは今――――使、二人で飲み食いしてきた。


 その経験が《急成長》スキルによってブーストされ――新たな変化が起ころうとしている……いや、いくらなんでも。


(早すぎるじゃろ……!?)


 《技能樹スキルツリー》の急な成長は時として主人を苛む、困惑はすれど、今は対応が先だ。


「背中を見せよ!」


 服を剥ぎ取り、背の《技能樹スキルツリー》に触れる。


「あつっ!」


 アンゼリセをして体験したことのないような体温、今すぐ溜め込んだものをスキルに昇華しなければ、器のほうがどうなるかわからない。


(とは言えどうすれば……!)


 土台から《焼肉食べ放題》と並ぶ新しいスキルを生み出すか。

 あるいは、《焼肉食べ放題》から派生するスキルを生み出すか。

 つまり、新しいよくわからんスキルが生じるか、よくわからんスキルからよくわからんスキルが生じるかの可能性を天秤にかけて――――。


「第二階梯スキルを生み出すぞ!」


 アンゼリセはそう決断した。

 《焼肉食べ放題》の概要は掴んでいるのだから、少なくともそれ以上にトンチキなスキルは生まれねえだろう、という極めて一般的かつ妥当な判断だった。

 はち切れそうな力を《技能樹スキルツリー》に還元し、新たなスキルが、萌芽する。


「うあああああああああ!」


 そのあまりの熱に、イツキが声を耐えかね叫ぶ。


「こ、これは――――」


 そうして、アンゼリセの目には、誕生した新たなスキルの名前がしかと映ってた。






・第二階梯

 伝説級レジェンダリー武器ウェポンスキル《業炎剣ごうえんけんカルマイド》

 



 ………………。

 知らんスキルから、知らんスキルが生えてきた…………。

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