第6話 潜入

テクノクリア社に繋がる糸口を掴んだシュンは、全身に緊張をまといながらその企業の本社ビルの前に立っていた。目の前には無機質で巨大なビルがそびえ立っている。表向きはIT企業として繁栄しているこの会社だが、カナが追っていた「プロジェクトA」に関わる裏の顔が隠されていることをシュンは確信していた。




「この中にカナの手がかりがあるはずだ…」


 シュンは深呼吸をし、決意を固めた。そして、ビルのエントランスを通り抜け、中に足を踏み入れた。




  社内の異変




 テクノクリア社に侵入する方法を探っていたシュンは、ある日テクノクリア社で働く古い知り合いに偶然出会った。彼は情報セキュリティの分野で有名なエンジニアで、シュンとは大学時代に一度だけ同じサークルで活動していた仲だった。彼はテクノクリア社の内部に精通しており、シュンが会社に潜り込むための手助けをしてくれることになった。




「気をつけろ、ここは表面とは違って中はかなり厳重だ。何か大きな秘密が隠されているのを感じる。お前が何を探しているのかは知らないが、深入りしすぎるなよ」


 エンジニアはそう言いながらも、シュンにある社員のIDカードを渡した。それは「特別なプロジェクト」関係者だけが使用することが許されるカードで、通常のセキュリティゲートを通過できる力を持っていた。




「ありがとう。すぐに戻る」


 シュンはカードを受け取り、感謝の言葉を口にしながらも、その目には決意が光っていた。




  潜入開始




 IDカードを使い、シュンはテクノクリア社の厳重なセキュリティゲートを通り抜けた。通常のオフィスエリアを装っているが、その奥には「プロジェクトA」に関連する研究施設が隠されているとエンジニアは教えてくれた。シュンは慎重に社員に紛れ込みながら、施設の奥へと進んだ。




 通路は次第に薄暗くなり、雰囲気が変わっていった。一般的なオフィスとは異なる、秘密の研究施設の冷たい空気が漂っていた。そして、シュンが目指していた部屋の扉の前にたどり着いた。そこには「プロジェクトA」と書かれたプレートが掲げられていた。




「ここだ…」


 シュンは息を飲んだ。カナが追っていた謎、そして彼女の失踪の鍵がこの部屋の中にあるかもしれない。




 彼は慎重にドアを開け、中に入った。薄暗い室内には大型のコンピューターやモニターが並び、無機質な機械音が響いていた。中央には何かを覆い隠すように、厚いカーテンが掛けられている物体があった。




「これが…プロジェクトAの中身か?」


 シュンはゆっくりとカーテンに手を伸ばした。その瞬間、背後から声が聞こえた。




「何をしているんだ?」


 シュンは驚いて振り返ると、そこにはテクノクリア社のセキュリティガードが立っていた。彼はすぐに警報を鳴らすように見えたが、シュンは機転を利かせ、素早く自分が記者であることを隠し、あくまでも社員として振る舞った。




「新しいデータ解析のプロジェクトに配属されたんです。この部屋の設備を見学しておくようにと指示がありました」


 シュンは冷静に嘘をついたが、セキュリティガードは不審そうな目でシュンをじっと見つめていた。




「君の顔は見たことがないが…」


 ガードが言葉を発しようとした瞬間、シュンは咄嗟にIDカードを見せ、強引にその場を通り抜けた。




  新たな手がかり




 緊張した空気の中でなんとかガードをやり過ごしたシュンは、部屋を後にして研究施設のデータベースルームに向かった。ここで彼は「プロジェクトA」の詳細な情報を手に入れることができると踏んでいた。




 彼は端末に接続し、特別なアクセスコードを入力してデータベースにログインした。すると、膨大な量の機密ファイルが目の前に広がった。その中に「プロジェクトA」に関するファイルがいくつか見つかった。シュンは急いでそれらをダウンロードし、持ち帰る準備を始めた。




 だが、そのファイルの中にはカナの名前が記された文書も含まれていた。それは彼女がこのプロジェクトに直接関与していたことを示すもので、さらに驚くべきことに、彼女は自らテクノクリア社の内部に潜入し、危険な情報を収集していたことが判明した。




「カナ…君は一体何をしていたんだ…?」


 シュンはファイルを握りしめ、カナがどれほどの危険に身を投じていたのかを初めて理解した。




 そして、シュンはカナの行方を突き止めるために、さらに深く「プロジェクトA」の真相に迫ろうと決意した。彼女が追っていたもの、その背後に潜む巨大な陰謀を解き明かさなければならない。




 だが、シュンの背後には再び迫る危機が――テクノクリア社は彼の存在を感知し始めていた。

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