第5話 光と影の謎
翌朝、シュンは再び「ナイキ・ギャラリー」に足を運んだ。彼はカナの残した「光の中に、影が隠されている」という言葉を心に刻み込み、美術館内を歩き回った。前日、彼が引き寄せられたあの絵――「静寂の光」が鍵だと確信していた。
再び絵の前に立つと、シュンはその細部に目を凝らした。単なる中世の風景画に見えるが、カナが何度もこの絵を見に来ていたこと、そして「答えはここにある」と言っていたことを考えると、この絵には何か秘密が隠されているはずだ。
「影…影が隠されている…」
シュンは絵を凝視しながら独り言のように呟いた。表面的には明るい光が差し込む美しい風景だが、その奥には確かに何か不気味な雰囲気が漂っている。光が強ければ強いほど、影もまた深い。
シュンは慎重に絵の構成を見直し、細部を注意深く観察した。遠くに見える木々の影、空に浮かぶ雲の形、そして地面に落ちる陰影。だが、目を凝らしても特に異常な点は見当たらない。彼は焦りを感じ始めた。
「何かが見逃しているんだ…何かが隠れているはずだ」
シュンは絵の前で考え続けた。そしてふと、美術館の職員が前日に話していた「光の中に影がある」という言葉が頭に浮かんだ。
「もしかして…」
シュンはひらめいた。彼は展示室内の光の配置に目を向けた。美術館の照明がどのようにこの絵に当たっているか、それが重要な手がかりかもしれないと感じたのだ。
シュンは職員を探し、照明の調整ができるかどうか尋ねた。職員は少し戸惑ったが、シュンの熱意に押され、照明を一時的に調整してくれることになった。照明が少し暗くなると、絵の中の光と影が微妙に変化し、今まで気づかなかった異なる陰影が浮かび上がった。
「これだ…」
シュンは心の中で叫んだ。絵の中に、通常では見えない細かな影が隠されていた。それは風景の一部として巧妙に隠されており、普通の照明では気づかれないものだった。だが、影の形状をじっくりと観察すると、それは明らかに「人影」を示していた。
「カナはこの影に気づいていたんだ…!」
シュンはその場で確信を得た。この絵に隠された影は、ただの風景画ではなく、何か暗号のようなメッセージが込められている。カナはそれを解読しようとしていたのだ。
職員に礼を言い、美術館を後にしたシュンは、カナの足取りを追いながら、次の行動を考えた。彼女がこの絵に隠された人影の意味を理解していたのなら、その次に彼女が向かった場所があるはずだ。だが、彼にはまだその場所が分からなかった。
その夜、シュンはカナの残したメモや資料を再び見返し、その影の意味を解き明かそうと必死になった。彼女のノートの中には、絵に関する考察が書かれていたが、詳細な説明は残されていない。ただ一つ、シュンの目に留まったメモがあった。
「影は過去を示す。真実はその背後に…」
「過去…?カナが探していたのは過去に関する何かだったのか?」
シュンは混乱したが、この言葉が何か重要な意味を持っていることを感じた。影が示す「過去」とは何を指すのか。絵に隠された暗号は、過去の出来事と繋がっているのかもしれない。
翌日、シュンはこの新たな手がかりを元に、更なる調査を始めた。彼は「ナイキ・ギャラリー」の歴史や、そこで展示されている絵画の由来を徹底的に調べた。そして、驚くべき事実に辿り着いた。
「静寂の光」という絵は、実は何世代にも渡って隠されていた「失われた絵画」として知られていたものだった。それは戦後、ある企業が密かに購入し、その後長い間行方不明になっていたが、数年前に再び発見されたという。
その企業の名は――「テクノクリア社」。
シュンは凍りついた。カナが追っていた「プロジェクトA」を運営していた企業が、偶然にもこの絵と深く関わっていたのだ。カナはそれを知っていて、テクノクリア社の隠された秘密に近づいていたのだろうか?
彼女の失踪は、この絵と「プロジェクトA」に繋がる何かに関係している。それを解き明かすため、シュンはテクノクリア社に潜入する計画を立て始めた。彼の決意は固まった。カナを取り戻すためには、この巨大な謎に立ち向かうしかない。
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