第4話 見えざる繋がり
朝の薄曇りの空の下、シュンは美術館の前に立っていた。堂島から得た「美術館」という曖昧な手がかりだけを頼りに、彼はこの町で有名なアートスポットを手当たり次第に回っていた。しかし、カナが最後に訪れたという美術館は未だに見つからない。
「どの美術館なんだ…」
シュンは疲れた目をこすりながらつぶやいた。何度も出直し、町中を駆け巡ったが、手がかりらしいものは得られていない。だが、ここで諦めるわけにはいかない。カナは生きている。彼女が何かを掴んだ場所が美術館に関係しているのなら、そこに答えがあるはずだ。
シュンはその日最後に向かった美術館「ナイキ・ギャラリー」の前で足を止めた。町でも特に古風な建物で、美術館というよりは歴史的建造物といった趣だ。この場所だけは他の美術館と雰囲気が違うと感じていたが、何故か今まで後回しにしていた。
「ここかもしれない…」
シュンは胸の中でそう感じ、ギャラリーの中へと足を踏み入れた。
館内は静まり返っており、まるで時が止まったかのように感じられた。美術品はクラシックなものが多く、古代から中世にかけてのアートが並べられている。シュンは慎重に展示物を眺めながら、何か手がかりを探し始めた。
すると、ある一枚の絵が彼の目に留まった。それは中世の風景画で、暗い色調の中に光が差し込む荘厳な絵だった。シュンはその前で立ち止まり、じっと見つめる。
「なぜこの絵が…」
彼の心に不思議な引力が生じる。そこに刻まれているのは、何も特別ではない風景。だが、彼はその絵に強く惹かれていた。
「その絵は『静寂の光』というタイトルです」
突然、背後から女性の声が聞こえ、シュンは振り返った。そこには美術館の職員らしき女性が立っていた。彼女は穏やかな笑みを浮かべ、親しげに絵を見つめている。
「とても美しいですね。特にこの絵は、少し前にある女性が何度も見に来ていたんですよ」
その言葉に、シュンは胸が高鳴った。
「その女性はどんな人でしたか?」
シュンは慌てて尋ねた。
「若い女性で、黒い髪をしていました。何度もこの絵の前に立ち止まって、じっと見つめていたのを覚えています。まるでこの絵に何か特別なものを感じているかのようでしたね」
「それは…カナだ」
シュンの頭の中でカナの姿が浮かび上がった。彼女がこの美術館に何度も通っていたというのなら、ここに何か重要な手がかりがあるはずだ。
「その女性は何か特別なことを話していましたか?他に何か覚えていることは?」
シュンはさらに深く質問した。
「そうですね…」女性は少し考え込んだ。「ある日、彼女は突然この絵の前で『答えはここにある』と言ったんです。まるで独り言のように。何のことかはわかりませんでしたが、彼女にとって何か重要なことがあったのかもしれません」
「答えはここにある…?」
シュンは再び絵に目を戻した。その言葉が何を意味するのかはわからないが、カナがこの絵に何か特別な意味を見出していたことは間違いない。だが、その意味を解読する方法が分からなかった。
シュンは少しの間その場に立ち尽くした後、職員に礼を言い、ギャラリーを後にした。頭の中にはカナの言葉が繰り返し響いていた。
「答えはここにある…」
シュンはその言葉に導かれるように、街を歩き続けた。美術館で得た手がかりは確かに重要なものだったが、まだ何かが足りない。彼女が失踪する前にこの絵に込めた思い、そしてその意味を解き明かさなければならない。
その夜、シュンは自宅でカナが残したかもしれない他の手がかりを探し始めた。彼女の部屋を再度調べ、書類やノートを注意深く読み解く。すると、一冊の古びたノートの隅に、彼女が美術館について記したメモを見つけた。
「…光の中に、影が隠されている…」
シュンはその言葉に驚き、メモを握りしめた。カナが残したこのメモこそが、彼女が見つけた「答え」に繋がるのではないかと直感したのだ。
「光の中に影が…」
シュンは再び考え込んだ。彼女が見つけた何かが、この言葉に隠されている。そして、それを解き明かすことでカナの失踪の真相に迫れるかもしれない。
その夜、シュンは眠れないまま、カナの言葉と彼女が追いかけていたものの繋がりを解き明かす方法を模索し続けた。そして、次の日、彼は再びナイキ・ギャラリーへと足を運ぶ決意を固めた。
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