第3話
「あ~腰が痛いわあ……」
作業台に向かっていた年配のパートさんが、腰をトントンしながらため息をつく。八百屋も立ち仕事が主だから、これはもう職業病みたいなもんだろう。なのでこれは、我が職場のいつもの日常風景でもある。
「痛いの痛いのとんでけ~」
そんな辛そうなパートさんを横目で見ながら、私は通りすがりざま、聞こえるか聞こえないかの小さな声で癒しの呪文(現代バージョン)を唱えた。すると、パートさんはキョトンとした顔になりつつ、
「ん??なんかちょっと楽になった気が…」
と、叩いていた腰を撫で始める。
「ま、いっか。お仕事、お仕事!」
不思議そうに首を傾げつつ、作業へと戻っていくパートさんの様子に、『うんうん。そーでしょ、そーでしょ』と自己満足に浸る私。致死性の病でも一瞬で治せちゃう私としては、肩こりや腰痛など病のうちにも入らないレベルだから当然だ。
本当は、加齢でヘタレてきた腰骨や椎間板など、根本から治癒してやりたいところだけど…さすがにそれはやりすぎで、不審に思われちゃうかも知れないので、一応頑張って力をセーブしている。
まあ、お婆ちゃんの時は、とっさのことで加減が効かずに、根本から治癒してしまったけどね。
前世の記憶と力を取り戻してから三ヶ月。
最初のうちは人に対して力を行使するのに躊躇していたが、医師らの妨害にならない程度なら大丈夫かも??と思い直し、こうしてちょこちょこ力を小出しにして周囲を癒して回っていた。
つまり、擦り傷、肩こり、腰痛、目の疲れ、疲労や、あとは…口内炎とか色々??
前世で大聖女として修練を欠かさなかったおかげで、今の私は、パッと見ただけでその人のどこが悪いかすぐ解るのだ。うーん。便利便利。
まあ…本来のスペックの高さを考えたら、未だ宝の持ち腐れには違いないんだけど──野菜や果物の鮮度を保つだけに使っていた頃よりは、まだしも有意義よね??…んん…そうだねって言って欲しい…。
それに、ちょっと考えたのだけど、私、実はポーションも作れるんだよね。そう。ゲームやファンタジーなんかでお馴染みのアレ。しかも特別な薬草も何も必要ない。私のこの癒しの力を変換するだけで製作が可能という優れものだ。
簡単な疲労回復から欠損再生まで、効き目は自由自在に変えられるし、その成分だけを容器を透かして注入することも出来る。
つまり、既製品の栄養剤などに、ポーションの効果を付与することが出来るのだ。
ただし、何故だかクソ不味い味までもが、効能と共に付与されちゃうんだけども。
「む~……こればかりは仕方ないか……」
前世の頃から何度も何度も、無味無臭に出来ないかと試行錯誤してきてみたが、匂いはともかくとして、味だけはどうしても消せなかった。うーん。ひょっとして、このクソ不味さにこそ、回復の力があるのではなかろうか??いや、わかんないけどね!!
なので、とりあえず、軽い疲労回復の効能を、そもそもがクソ不味いと評判の、とある栄養剤に付与してみることにしてみた。これで、ますます不味くなっちゃうけど…そこは仕方ないと勘弁して貰おう。
「よーし!!やってみるか~!!」
という訳で、思いついたが吉日。
さっそく作戦を実行してみた。
──が、しかし。
もともと買う人が少なかったせいで、それがきちんと効果を発揮してるか、すぐには解らなかった。だけど、しばらくすると、滅多に売れないその栄養剤が、棚から消えるようになっていったのだ。
「……なんで売れてんだ??」
おかげで、私の勤務するスーパー内にある薬局では、店員が毎日頭を捻る事態に陥っていたようだ。
『不味い、効かない、そのくせ高い』が定評の栄養剤が次々売れるのも謎だったし、何人ものお客さんに、商品の在庫を問い合わせられるのも謎みたい。
「あれ飲むと、嘘みたいに疲れが取れるのよ~」
「二日酔いも一瞬で治るの、マジかって思ったよ」
等々…買っていったお客さんからは、疲れがスッキリとれると大評判で。てか、二日酔いまで効くとは考えてなかったけども。
それらの口コミが広がると、ますます仕入れが追い付かなくなったとか。
しかし、そのせいで私も、こっそりポーション化するのが追い付かなくなってしまった。なにせ、私が入荷を確認する前に、肝心の商品が完売してしまうからだ。これは何らかの対策考えないとな~なんて考えていたら、いつの間にかその栄養剤、メーカー販売終了してしまっていた。
「ちょっと前から決まってたんだよ…」
「そーなの??」
さすがにそんな情報知らなかった。まあ…もうずっと長い間売れてなかったような不人気商品だしね…最後に一部地域でちょっと売れたくらいで、メーカーも販売継続に繋げる訳がない。
「うーん…もっと他に良い手段を考えるか…」
思いついた時は、良い案だと思ったんだけどね~。
まあ実際やってみたら、私が直に効果を付与して回るのも手間で、おまけに効率も悪かったから、この作戦は失敗ってことで……他に何か出来ないか考えよっと。
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