第4話

 ここらでちょっと、前世の話をしよう。


 私が大聖女として生きていた世界は『スロータニア』という。


 現世界で言うとアメリカくらいかな??…の大きさの大陸に、大小七つの国があり、そのうちで最も大きなセイローン帝国に前世の私は住んでいた。


 この世界では『聖女』という存在は、けっこう当たり前な存在で。

その力に強弱の差はあれど、世界中に何千といる身近なものだった。


 つまり怪我や病気はすべて聖女が癒すので、医者という職業自体がなかった訳である。


 聖女の力は5歳の頃までに発現するのが通例だ。


 だけど私は10歳になったある朝、急に聖女の力を発現した。

しかも遅ればせながら発現したその力は、何故か過去含めて他のどんな聖女よりも強力なものだったのだ。


 しばらくして私には『大聖女』の称号が贈られた。


 歴史上数名しかいなかった存在になったのである。


 これには私自身が一番驚いた。

 でもまあ、やることは変わらないので、私はこれまでと同じように頑張って人々を癒して回ったし、瘴気という脅威から国を守るために結界を張り続けてもいた。


「大聖女さま、ありがとう!!」

「どういたしまして」

 私は大聖女として人々を癒す仕事が好きだった。人々の笑顔が嬉しかった。誰かを助けることが出来ることが、この手で誰かを守れることが誇らしかった。だから昼夜の別なく頑張り続けた。とにかく毎日、一生懸命だった。──それ、なのに。


 ある日、私は、処刑された。


 訳が解らないまま。


 

「前世の頃は訳わかんないまま殺されたけど…まさかこんなことだったとは…」

 私は一冊の本を閉じながらため息をついた。

 本屋へ行って見つけたその本は、いわゆるライトノベルというもので。ふと、表紙が気になって手に取って中を見てみたら、なんだか色々覚えのあることが書いてあったのだ。なので、あまりこういった本は読んでなかったけど、ちょっと試しに買って帰って来たのである。


 『裏切られて殺された大聖女は、生まれ変わって裏切者に復讐を遂げる』って、長い上に何の捻りもないど直球なタイトルのそれは、なんと、詳しく読めば読むほど私の生きていた前世の世界の話だった。

「え……なにこれ……」

 この手の小説を読むのは生まれて初めてのことだったから、私は、異世界転生とか逆行転生とかそういうものの意味どころか存在自体も知らなかったのだ。


 この小説によると、私は、死んだあと、死ぬ数年前の同じ世界に生まれ直すらしい。そういう現象を逆行転生って言うみたいね。そして、時を戻して生まれ直した私は、それまで気付かなかった世界の歪みと人々の悪意に対抗しながら、前回の生で理不尽に殺された恨みを晴らしていく……らしい。


 だけど私は今、前世とはまったく違う現代の世に生きていた。

 つまり私がこうして現世に転生してきたのは、なんらかのバグとでもいうのだろうか??

 ううーん…良く解んないけど。

 でもまあ、そのおかげで、自分の前世の話を小説で読めてしまうって、なんだか奇妙な事態に陥っていた。変なの。

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