第2話
記憶と共に大聖女の力を取り戻した時、私は、世界中の生き物を癒して回りたい、なんてことを考えた。
いや、だって、せっかく奇跡ともいえる力を使えるようになったんだから、苦しんでる人や生物を助けたいって思うじゃない??
それで手始めに病気で苦しむ人たちを助けて回ろうかしら??と、近所の病院の位置やらを調べてみたりもしたんだけれど…
でも、本当にそれは良いことなのか??と、ふと悩んでしまった。
何故??って思うかも知れないが、それにはちゃんとした理由がある。
もちろん病を癒すのは簡単だ。なにしろ今の私に治せない病はないから。
でも、そうやってすべての病を癒して回って、世界から病魔を取り除くことが、本当に人類のためになるのか??と考えてしまったのだ。
いくら大聖女でも、病気や怪我そのものを無くすことは出来ない。
ということは一旦、綺麗に治癒して回っても、新たな病人や怪我人はどんどん生まれてくる。
今まで無かった病原菌ですら、時折、世界のどこかで発生してたりするんだから、その繰り返しに際限ないのは解ると思う。
私が生きている間は良いよ?
どんな病気だって、瀕死の怪我だって、一瞬で治せてしまうからね?
でも、その後は??
私が死んでしまった後は、いったい誰が病や怪我を治療するの??
そう、もちろんそれは、人の医者たちだ。
では、私がすべての人間を治癒してしまったら、患者がいなくなった医者たちはその間、どうやって生活していくのか??
こう言っては何だけど、患者という収入減がなくなったら、食っていける訳がないよね??
きっと私が生きている間、医者という職業に就く人間が居なくなってしまうだろう。そうして、せっかくここまで発展してきた高度な医療技術もまた、その間に廃れたり失われたりするのに違いなかった。
それではダメなのだ。
私が永遠に生きられでもしない限り──または、私のような聖女が、今後もこの世界に生まれ続ける確証でもない限り、人は自らの手で同族を治癒し続けていかなくてはならないのだ。そして、そのための技術と知識を維持し、未来へつなげ、発展させていかなくてはならないのだから。
治せるのに治せない。
そのことにかなりジレンマに陥ったけども、私のこの考えが『間違ってる』と言い切れる人は、きっと、この世界に存在しないはずだ。
けれど、せめて、手の届く範囲で、この力を生かせないものか??
そう考えに考えた結果、私は脳を駆使し過ぎてパンクし、とりあえず、勤めている八百屋さんで、野菜や果物の鮮度を保つために聖女の力を使っていた。
…………え??
今なんか、ずっこけられた??
うん。まあ、冷静に考えたら、なぜそうなる??って、自分でも思うけどさ??
いや、でもね??
おかげでうちの店、お野菜の鮮度が長持ちするって、近所でなかなかの評判なんだけど。
……って、宝の持ち腐れ??
え、そ、そうかな??やっぱり??
うーん…
これでも、めちゃくちゃ真剣に考えた結果なんだけど……ま、まあ、いいや。
あとは、職場の同僚たちの腰痛や肩こり、勤務中に出来た細かい傷なんかを、こっそり治してまわってる平穏な日々を過ごしてます。
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