46.人と死
俺がハイドさん達の所に戻る頃には、夜も少し明け始めていた。何時間も待っていてくれたのだろうか。俺が近付くと、ハイドさんも直ぐに俺に気付いて、慌ててこちらに走って来た。
「ラキ君!!」
「ハイドさん!!」
俺も一気に緊張が抜け、何も考えずにハイドさんに向かって走り出す。そのまま、ハイドさんに飛びついた。
「何があったんだい!? ここからでも聞こえるくらい大きな音が……」
その瞬間、頭の中に沢山の死体が転がっている光景が浮かんで来た。思わず目をぎゅっと閉じたけれども、頭からいなくならない。
「ハイドさん……。俺……、俺……」
「ラキ君……?」
と、もう一つの足音が近付いてくる。ダイナンさんだ。
「よう、ラキ! 作戦はどうだ? つかあのでけえ音はなんだ? こっちはハイドがそっち行くのを止めようとするのが大変で……。ラキ……?」
気付いたら、俺の目からは涙が溢れ落ちていた。それは拭っても拭っても、止まらない。
「だいじょ……、ぶ……。多分、一人は、脅せて、ちゃんと帰ったと思う……。でも……」
蘇る、あの大きな音。火がついた瞬間、何もかもが吹き飛んだ。その一瞬のうちに皆死んだ。たった1秒、ちょっと荷物に火がついただけだった。
「皆、死んじゃった……」
「えっ……」
ハイドさんもダイナンさんも、一瞬固まった。
そりゃそうだ。本来は殺さない作戦だった。
「大丈夫だよ。ラキ君、作戦としては問題ない」
そう言って、ハイドさんは俺を抱きしめてくれた。それでも、沢山の死体が頭にこびり着いて離れなかった。
死体を、見たことがないわけではなかった。けれども、あんなにも一気に、守ることもできずに人が死んだのを見たのは初めてかもしれない。
「ラキ。少し落ち着いてからでいい。何があったか教えてくれねえか」
「だいじょう、ぶ。荷物に、火をつけたら、大きな音がして、気付いたら、全部吹き飛んでて……。ばくだんって、言ってた……」
「……例の武器か」
そう言えば、ダイナンさんが前にそんな武器があると言っていた気がする。それを、俺が発動させてしまったという事だろうか。
「そう、だ。他にも、これを、筒みたいなのから凄い勢いで出して……。弓みたいな……、でももっと威力がある感じの……。じゅうって言ってた……」
俺は、拾った小さくて硬い塊をダイナンさんに渡す。
「吹き飛んだっつうことは、その筒みてえな武器も残ってるか?」
「わかんない……。でも、人も、傷だらけだったけど、倒れてるだけだったから……。多分、ある……」
「……そうか。良くやった」
ダイナンさんは、俺の頭をガシガシと撫でた。
「気にすんな。俺が火をつけろっつったんだ。奴らが死んだとしたら、俺の責任だ」
ダイナンさんは勢い良く立ち上がる。
「こっからは俺らの番だ。俺らだけで調査に向かう。ラキはここで休んどけ」
「あ……、でも……」
一緒に行かなきゃと思った。またあれが起こって、今度はダイナンさんが死んでしまったら。
そう思うと、震えが止まらなかった。どれだけ強くても、どんな人でも、一瞬にして死んでしまうのだ。
「安心しろ。ここまで音が届くくらい派手にやったんだ。もう吹き飛ぶやつも発動してるもんはしてるし、生きてるやつは皆逃げてんだろ。念の為、気を付けて行くがな」
「でも……、皆を守らなきゃ……」
「もう十分に守ってもらった。おまえはもう休め」
「で、でも……!」
ダイナンさんは、もう一度俺の頭をぽんぽんと叩いた。そして、俺の体をハイドさんに押し付ける。
「ハイド、ラキを頼む」
「こちらこそ、現場は任せたよ。ダイナン、気を付けて」
ダイナンさんは、騎士団の人達に指示を出して出かけて行った。ハイドさんは、俺の手を引き、テントへ向かった。引かれるまま、俺は歩いた。
「……ラキ君が殺したわけではないからね。殺したのは、彼らの武器だ」
「……うん」
「彼らも沢山人を殺して悪い事をしている。それが自分に返ってきたというだけだよ」
「わかってる。だけど、人って、あんなに簡単に死んじゃうの?」
テントに入り、俺は床に座らせられる。ハイドさんは、ずっと手を握ってくれていた。
「……そうだね。確かに、皆ラキ君みたいに強くはないね」
「……俺、あんなのから守れない。もしあの武器で皆を攻撃されたら……。皆を守りたくても、間に合わない。一瞬で、死んじゃうんだ」
ローグとの戦いだって、上手く戦えば皆を守ることは簡単だった。それにどこかで、強いハイドさんとダイナンさんはローグ如きに死なない、そう思ってた。けれども、あそこにいた俺以外は、何もできないまま死んでいった。逃げるのが間に合わないまま死んでいった。
「大丈夫。もうラキ君が守ってくれたから。もう皆大丈夫たよ」
「ハイドさんは死なない? 一瞬で死んじゃうんだ。何もできずに、逃げる時間もなく死んじゃったんだ」
「……ラキ君、もう寝なさい。ちょっと混乱しているだけだ」
ハイドさんは、ハイドさんの膝を枕にするように俺を寝かせた。
なんで死なないよと言ってくれないのだろうか。なんでいつものように、大丈夫だよと言ってくれないのだろうか。
俺は目を閉じる。けれども頭に浮かぶのは、あの大きな音と、沢山の死体だった。思わず耳を塞いだけど、あの音は何度も頭の中になり続けて消えない。
「大丈夫だよ。ラキ君、大丈夫」
ハイドさんが頭を撫でてくれて、少しだけ吸う息が楽になる。
「おやすみ。ラキ君。本当に、みんなを守ってくれてありがとう……」
その記憶を最後に、俺は意識を飛ばした。
気が付けば、俺はあの沢山の死体の中に立っていた。ぼんやりと下を見ると、ダイナンさんとハイドさんが倒れていた。思わず叫びそうになるも、声が出ない。
また遠くで、あの音が鳴った。
ハッと目を開け、俺は飛び起きる。俺は変わらずテントの中にいた。ダイナンさんが、ハイドさんや騎士団と何か話している声が聞こえる。
皆、ちゃんと生きている。きっと、夢を見ていたのだろう。
「おや、起きたかい?」
俺が起きたのに気付いたのか、ハイドさんがこっちへ来た。
「凄い汗だね。暑かったかい?」
瞬間、夢で見た光景が目に浮かぶ。俺は、思わずハイドさんの服を掴んだ。
「どうかした? ……まだ、辛いかな?」
「ううん。ちょっと変な夢を見ただけ。……皆無事?」
「……うん。皆無事帰って来てるよ」
騎士団の人達も、俺を見ていた。何人かは手を振ったり、親指を立てて笑顔をくれたりして、少しだけ安心する。
ダイナンさんが、机に俺を手招きした。机には、2つの何かが置いてあった。
「吹き飛ぶやつは見つからなかったが、無事この2つを入手することができた。一つはラキが言っていた銃、もう一つは……」
ダイナンさんが、小さい方の道具を取る。何かを押すと、カチッという音の後に、筒の先から火が出てきた。それは、まるでクレアの魔法みたいで、俺はハイドさんに教えてもらったゾルオ先生の過去を思い出す。ゾルオ先生の両親が過去に発明したものは、きっとこのようなものではなかったのだろうか。
「こいつと同じような音が、何も出ねえジュウというやつからもした。バクダンというやつも、火を使ったら吹き飛んだっつうから、こいつで色々とやったんだろうな」
「一度、色々と調べてみる必要がありそうだね」
ゾルオ先生の件は、一部の人達だけしかしらない。俺は、ハイドさんの方をチラリと見た。
「発明は人がもともとできたことだからね。私達が葬った技術を、誰かがまた見つけただけだよ」
ハイドさんが俺にだけ聞こえるように、こっそりそう言ってくれた。
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